佐藤和男「南京事件と戦時国際法」批判 総目次 |
1.はじめに 2.戦数論 3.便衣兵殺害論 4.捕虜殺害論 オッペンハイム所論について 5.捕虜殺害論 事例検討 6.まとめ 7.参考資料 |
まとめ
佐藤氏は「南京事件と戦時国際法」の中で、「(南京)攻略戦展開に伴う国際法関連の問題点」のうち「最も議論の喧しい二つ」論点として、便衣兵殺害問題と捕虜殺害問題の「法的適否の判断」を論じた。
その見解を検討してみると、次のようにまとめることができる。
- 二つの論点に共通して用いられる戦数論に関して、賛否が大きく分かれる理論にも関わらず、賛成する見解のみに依拠して戦数論を説明する
- 便衣兵殺害論では、現行犯という概念を通常とはまったく違う捉え方をした上で容疑者殺害を合法とする
- 「多数の便衣兵の集団を審判すること」が「不可能」だったという単なる作戦行動上の困難をもって、戦数適用に求められる「極度の緊急事態」「死活的な重大危険」とする。
- 捕虜殺害論では、佐藤氏が検討したであろう事例の大部分が、戦数適用に求められる「極度の緊急事態」「死活的な重大危険」が認められない。
すでに紹介した戦数否定論者の見解には次のようなものがある。
筒井若水
『国際関係法辞典』国際法学会編、三省堂(1995年 8月第1刷発行) p.488
これまで援用されたケースが、単に違法を糊塗するためのものであったとみられる(2度の大戦の諸例)ことからも、これを独立の逸脱事由とみるべきではない、との立場が説得性をもつ。
藤田久一
藤田久一『新版 国際人道法 〔増補〕』有信堂高文社、2000年5月29日初版第2刷発行(増補) p.65
戦争や武力紛争の状態は、そもそも国家の重大な利益やその生存のかかった事態であるから、あらゆる戦争法、人道法の無視が、戦数を理由に正当化されてしまうからである。
仮にも、現在において戦数論を主張するならば、このような批判を避けるべく論理を構成する必要があるだろう。ところが、今回の佐藤氏の見解を検討の結果としては、これら戦数否定論者の懸念が現実のものとなってしまったように思える。
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