南 京 特 務 機 関

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井上久士編・解説 『華中宣撫工作資料』(不二出版)より

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但し書
南京特務機関
南京班第一回報告(一月二十一日提出)
南京班第二回報告(二月中状況)

建設概況

南京班第三回報告(三月中状況)

南京建設概況(三月)


       

<但し書>
但 し 書

一、この資料は 井上久士編・解説『華中宣撫工作資料』(不二出版) を基に作成されています。
二、旧漢字は適時、新漢字に直してあります。
三、文中の[ ■ ]は、判読不明な文字です。
四、おおよそレイアウトを再現していますが、完全ではありませんのでご注意ください。
五、誤字・脱字があるかも知れませんので、発見された方は K―K@南京事件資料集 までご連絡ください
六、「ゆう」さんに監修をして戴き、いくつか修正をしました。
■■[  ] → 修正
■■[  ] → 妥当性の高い予想
■■[  ] → 判断留保




 P148  
南京特務機関
一、工作人員
機関員 松岡功
 〃   佐藤鶴
 〃   小嶋友千
 〃   馬淵誠剛
 〃   丸山進

二、工作開始期日
昭和十二年十二月二十四日

三、戦前南京市一般概要
面積 五二方粁
人口 約一、〇八〇、〇〇〇人
位置 揚子江に沿ひ江口を距ること約四〇〇粁、南京、上海間鉄路の延長約三一〇粁ナリ
交通 首都たりし為鉄路、公路共四通八達し且揚子江に臨める為水陸交通共に至便なり
物産 政治都市乃至消都都市たる為に、特筆するに足る物産な新式工業に属する工廠も若干数を算すれと寥々たるもの

四、宣撫工作一般概要


南京班第一回報告(一月二十一日提出)
皇軍占領後の南京市概況

一、緒言
南京市は南北約二里東西約一里半の地域を占め、四辺に堅固な城壁を廻らし、今次事変前迄は人口約一〇六万を擁し、国民政府の首都として其の経営、建設に多大の苦心か払はれ居りたり
去る十二月十三日皇軍か頑強なる敵の抵抗を排除し、南京を占領せる際には、人口も著しき減少を示し居りしも、而も尚逃け遅れ内に避難し居りし支那民衆は大人男子一〇万、女子五万、少年少女五万計約二〇万と推定せられ、是等難民の処理如何は皇軍入城後即時に当面せる大問題たりき

二、治安宣撫−対難民問題
初め二〇万を数へる是等避難民は独人ラーベルを会長とする国際委員会の手に収容され、市内中央西部一地域外国人所有建築物多き地点)して之を難民区とし、食糧其の他生活品は総て国際委員会の手を通して配給され居たり
然るに皇軍入城後は市中の治安恢復著しく、宣撫工作の■■も又見るへきものありて、一月元旦には陶錫三氏を委員長とする南京自治委員会か成立され、茲に該会は一月五日二〇万の難民を国際委員会より接収するに至れり
尚我か軍に於ては、南京か完全に皇軍に包囲され、逃亡の余地全然なかりし点よりし、此の難民中には必すや多数の敗残兵、不逞分子か潜伏しあるものとみ、一月六日に至る迄、毎日厳重なる捜査を行ひて其の検出に努め、全員を査問して多数の敗残兵を摘出せしか其の他一般般無辜の良民には、其の良民たることを証する「安居の証」を交付して、安居■■せしめたり
併し乍ら、巳に大半以上廃居と化せる南京の現状から推して二〇万と謂ふ厖大な人口の救済をなすは、極めて困難なる事に属し、先つ食糧問題か当面重大問題として日程に上り来れり。而して本件に関しては当面の解決として我軍の占領せる糧秣を自治委員会に無償にて払


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ひ下け、自治委員会は原則として之を一般難民に売却することとせり
併し難民中には金なく家なく且労働能力なき者も多数あり、之等に対しては止むなく無償交付をなすこととせり
斯かる救済策を以てして、尚現在(一月二十一日)にて今後一箇月分の食糧を貯蔵しあるか、野菜、薪、魚類等は殆と欠乏を来さむとしある為、其の対策として、特定の者に限り許可を与へて城外へ出■、欠乏物資の搬入に当らしめむと、計画立案中なり。又食糧問題の■かる現状と難民の善後処置を速に■せんとの見地から難民に対して其の徒食を警戒し、出来得る限り速かなる正業への復帰実現を考究中なり
既に特殊技能を有する者約三〇〇名(其の扶養家族を合せは約一、五〇〇名)か鉄道、水運、電燈其の他の業務に使役され或は城内清掃人夫となつて労力を提供しあり他方小商売の奨励計画も漸く其の緒に就かむとしつつあり
難民区から現住地への復帰は上述主旨の下に去る一月十日から行され中央地区に定められた日本人街を除く全市を五区に分ち、各区に区長を置き、徐々に難民を各区に移住せしめ、家なき者には宿舎を世話し、一月末頃には大体各区への分布を完了せしめ、難民区は其の時正式に解消する予定なり
次に各復帰を終了せる難民には保甲制度を基礎とする自治生活を行はせ、治安の維持には警察隊之に当り、連座法による取締方針を採る筈なり。又城内外の通行は食糧問題解決、城内清掃を俟つて一般に許可する予定なるか、目下は城内外にある家族との関係其の他を考慮し、城外近傍の者にのみ其の自由を若干認めあり

三、自治委員会の活動
過渡期にある自治委員会は現在未た財源となすへきものなき為、今後糧秣売却によつて得る金額及予定案としての人力車税(約一千台あり)の外、魚類、野菜等の市場を自治委員会直営下に開設し其の収入を財源の一部に充て、将来は戸数割税等の方法を以て経費の捻出を計る方針なり。従つて現在の自治委員会は尚揺■時代の域を脱せす、未た特記すへき実績は皆無なるも成立に際して発表せる宣言は次の如し

(一)国民党の党専政を排除し、民衆を基礎とする政治を実行す
(二)各地親日団体と合作し、日支提携の実を挙け以て東洋平和の確立を期す
(三)防共政策を実行し抗日排日思想を絶対に排除し、欧米依存の観念を矯正す
(四)産業を振興し、民衆の福祉を増進す
(五)広く人材を登用し、民衆自治の徹底を期す

以上の宣言により、委員会は総務、財務、救済、警務、工商、交通の各課に分れて夫々活動に入り、現在は対難民問題、屍体の処置、城内各所の清掃、其の他衛生施設に全力を挙けつつある外、難民の救済登記工作を行ひ、難民の復帰につれ、其の治安維持の為去る一月十日警察処を設置せり。現在人員は百六十名にして、他に三十名の消防隊か付設されあり

四、復興南京の建設と交通恢復状況
南京建設に先つ最も必要な電燈と水道は、我軍の非常なる努力の結果十二月三十一日真の復旧を見るに至れり、即ち、事変前整備せる千三百名の従業員に比すれは僅か其の十分の一にも充たぬ僅か八十名の作業隊は、克く大破壊を受けた施設復旧に当り、寒気を冒し、材料不足を克服し、不■の作業を続行し、復旧工事を完成せり。電燈水道とも軍関係は殆と大半其の配電、送水を完了し、逐次在住邦人其の他に及ほす段階に達しあり
目下水道の水源地は南京城西方揚子江岸の水道廠にして、電燈は南京市南方約十粁上坊内の発電廠及下関の電燈廠の送電による
交通機関の中、鉄道は鉄道部隊並鉄道従業員不断の努力により、現在既に、南京−上海、浦口−除県−明光、南京−蕪湖の三線何れも開通し、就中滬寧線は鎮江付近トンネルの破壊により著しき妨害を蒙り居りしものなるも、其の修理全くなり、二日間を要せる上海−南京間も一月十二日より僅に十二時間にて足ることになれり


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五、日本人街
南京復旧事業の進展と交通機関の恢復につれて、日本人の南京に進出し来る者漸く其の数を増加し来れるに鑑み、其の居住及営業の便宣を計る為、市中心区に日本人街を設置したり。日本人街は市内目貫の地点にて、広さ約二百二十町歩、各酒保を初め飲食店、時計店、理髪店雑貨商、旅館等漸次其の数を増し、現在の開店数約六十軒、外に開店申込中のもの数件あり、軍人、軍属関係以外の在住日本人数約三百名に達す。尚軍としては、日本商人の南京進出に能ふ限りの便宣を与ふる方針の由なれは、日本人街の今後の発展は急速に行はるるものと思料さる。但し物資運搬の方法を欠く為、酒保関係者以外は商品搬入に多大の困難を感しつつあり。又邦人中、漢口引揚邦人には特に便宣か与へられ、目下在住者の大半は彼等に依て占められ、所謂一旗組の入の余地殆となし

六、国際関係
南京は国民政府の首都たりし関係上、各国大公使館初め各種権益の存するもの少なからす、動乱支那を綾くる現下各国の微妙な動きと相俟つて、事変後南京に於ける列国官民の行動は極めて重大視すへき状態にあり。国際委員会の活動の如きも其の尤たるものなりき。上述の如く独人ラーベルを会長とする国際委員会は、難民の救済、保護の為国民政府の南京放棄、奥地移転に際し、相当額の資金と食糧を受領し居りたるか、彼等は其の食糧を一俵九元にて難民に売却し居たる事実あり。従て自治委員会か難民区を接収したる後に於ては、爾後救済続行の基金としても、右資金を自治委員会に交付すへきか当然なりしにも拘らす、確たる証拠なきを楯に之を拒み、且又国際委員会解散後も依然として難民に対する策動を続け、表面慈善事業たるを標榜し。世人の猜疑を避けつつも、其の裏面にあつては、自己の利益に汲々たる一方、難民を手馴け自治委員会の円満なる発展を妨害するか如き幾多の行動ありたり。而も斯かる態度は不逞分子の利用する所となる傾向ありたれは、我方に於ても夙に■■の■を注き居りしか、本年に入り列国庇護の下に潜伏し居たる敗残兵、不逞分子を矢継早に検出逮捕せり。
又、一月初旬には英、米、独の外交官武官等相次いて南京に来り、被害調査、権益保護を名目として活発なる動きを示しつつあり。此の行動に■しても、当初若干の問題発生を見しも其の後其の何れも解決を遂け、今後該問題に関する紛争の憂は除去せられたるも、然し、今後とも各国外人の動静に就きては充分の注視を必要としあり


南京班第二回報告(二月中状況)
宣撫概況

一、南京市自治委員会
(一)南京市自治委員会の成立
(二)区公所の開設
(三)南京市警察庁
(四)自治委員会の財政

二、難民区の解散
(一)国際委員会に対する処置
(二)難民の原住地復帰状況

三、治安
(一)敗残兵及抗日分子の摘出
(二)一般治安状況

四、市街清掃
(一)清掃隊の編成


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(二)紅卍字会の屍体埋葬

五、救済
(一)物資に依る救済
(二)施療

六、難民授産
(一)公益事業従業員の復職
(二)軍使用苦力
(三)各区内に小売市場を開設

七、物資供給
(一)軍票交換所の設置
(二)自治委員会の食糧直売
(三)物資蒐集の為調査隊を各地に派遣
(四)中央卸売市場の開設
(五)対支那人販売商店の開設


一、南京市自治委員会
(一)南京市自治委員会の成立

入城当時に於ける城内難民数は大約二十五万と謂はれ国際委員会の設定せる所謂難民区に蝟集して宛然乞食の都なるの形観を呈し治安維持復興進捗上甚しき障害を成したるのみならす国際委員会の統轄下に於て所謂欧米依存の弊風を難民の胸に強く浸潤せしむるか如き傾向にありたるを以て可及的早急に自治委員を組織せしめ自立、自治の規範を確立すへく特務機関の指導下に昭和十二年十二月二十三日自治委員会備委員会を組織せしめ委員会に於て諸般の準備を完了し昭和十三年一月一日鼓に於て南京市自治委員会の正式発会式を挙行し其の庁舎を旧首都警察庁に置きたり
自治委員会の組織は付表一参照

(二)区公所の開設

自治行政の徹定及次項所記の如き難民区解散即ち難民の現住地復帰促進の観点より区公所設置の必要を痛感したるに依り自治委員会を指導して城内四区、下関一区、計五区の区公所を計画し一月十日先つ城内昇州路■■巷に第二区公所を開設し逐次第一(城内下江■■第三(城内珠江路大■■巷)第五(下関中山橋無錫路)第四(傅佐園蕪湖路)の順序に一月末日迄に於て全区公所の開設を完了し尚中華門外の城外区を計画中なり
区公所の組織は付表二参照

(三)南京市警察庁

南京城攻略の情勢に鑑み、敗残兵及抗日分子相当多数難民中に潜在しありしこと事実にして之か検挙は喫緊の急務にし隠匿兵器亦城内外全域に亘り相当多数散在しありしを以て右捜索の必要もあり入城皇軍部隊に協力して南京の治安を早急に確立せしむへく自治委員会正式成立後直ちに警察庁の開設に関し計画を進め一月十日旧首都警察庁舎に於て発会式を挙行したり
南京各区公所の設置に伴ひ各区に警察局を設け特務機関治安工作員及憲兵隊指導の下に治安の任に当り相当の成績を挙けつつあり
然れとも現下尚軍隊及憲兵を以て治安を維持しあるは言を俟たさる所なるも直接の治安維持は将来軍隊より憲兵へ憲兵より自治委員会に移行せしむる様企画しあり
警察庁の組織は付表三参照


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(四)自治委員会の財政

一月に於ける自治委員の収支を対照するに

(1)収入                     三一、〇八五・〇〇
   内訳
   派遣軍司令官賜給            一〇、〇〇〇・〇〇
   米穀及麺粉販売              一七、八九五・〇〇
   其の他雑収                  三、一九〇・〇〇

(2)支出三〇、五二四・〇〇
   内訳
   総務課(自治委員会本部の会計を司る)一八、四〇〇・〇〇
   財務課                        三〇〇・〇〇
   工商課                        五五〇・〇〇
   救済課                        二〇〇・〇〇
   交通課                        七〇〇・〇〇
   警察庁及警務課                五、二〇〇・〇〇
   第一区公所                   二、〇〇〇・〇〇
   第二区公所                   二、〇〇〇・〇〇
   第三区公所(月末開設)              三〇〇・〇〇
   第四区公所(月末開設)              三〇〇・〇〇
   第五区公所                     五〇〇・〇〇
   図書館                         七四・〇〇
   計                       三〇、五二四・〇〇

(3)月末残金五六一・〇〇
右経費の約六五%は人件費なれ共委員会の創業時なる情態よりし■止むを得さる事情なりと思考さるるか財政の状況は文字通惨憺たるものにして二月分の報告は未たなきも概して一月の実況と差不■るへし
右の如き状態なるに依り特務機関及自治委員会に於て各■財源の■色に努力しつつあるも経済資源に乏しく而も貧窮の三十万人口をしあるの実情に照し早急に財政の確立を期するは蓋し至難のこと■属するを以て旁難民の糧食統制の必要もあり当分の間米穀直営に依る利益を以て委員会の主要収入たらしむへく指導しつつあり


二、難民区の解散
(一)国際委員会に対する措置

国際委員会は十一月下旬我当局の明確なる否誌にも不拘南京難民区を設立して残留難民を全部該区域に収容し皇軍入城後と施療施米其の他難民に対する各の救を続行する一方難民区に於ける皇軍の行動を監視して活発且つ意ある対外宣撫を試みたり
(蒋介石退却の際住民給養の為該■二十万元、米一万■を交付したり)
国際委員会の右の如き行動を■再持続せしむるの百害あつて一利なきは白明の理なるを以て之か活動を抑制すへく一月八日南京自治委員会をして爾今難民に対する諸■の救恤事項は凡て之を自治委員会に於て施行する旨の国際委員会宛通告を発出せしめ爾来今日迄■■ある毎に其の蠢動を抑制したる結果国際委員会の活動は現在最早実質的には殆と停止の状態にあり

(二)難民の原住地復帰状況

国際委員会の蠢動に対する抑制と共に所謂難民区を解散せしむへき方針を確立し難民区内住民に対し早急原住地に復帰、復業すへきを■■したるも治安に対する不安感極めて根強きものあるに■へて原住居焼失せる事例甚た多かりし為遅々として捗らさりきも警備司令部及特務機関の指導と自治委員会警察庁及各区長以下戸■、家■、救済各組組織の活発なる活動とに■り逐次復帰者の数を増し二月末日現在に於ける復帰者数は

第一区 六九、〇六七
第二区 六五、二二二
第三区 一九、二〇六
第四区 一二、〇〇七
第五区 一、〇〇〇
(註第五区は未た■■登記■■■開始し■らす現在住民の推算総


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数なり)
計一七二、五〇二

にして各区共主要街路に小売店■比し■盛を極めつつあり
復帰したるも職なき者或は老幼■女にして独立にて生活の能力なき者等に対しては区公所に於て適当■屋に収容し救恤を試みつつ極力授産に努力中なり
又元来南京に住居を有せさる者にして戦争の為南京に退避したる者及皇軍入城部隊に伴はれて南京に来りたる者相当多数ありたるを以て二月九日以降十日間に亘り近接周辺地域に復帰し度き難民を全部復帰せしめ又一月二十七日、二十八日両日に亘り上海に帰還し度き難民約一千名を送還したり
尚■山、蘇州、無錫、丹陽、鎮江方面に帰還を希望する者約一千余名あるを以て之に対しても■■の■■に送還せしむ予定なり


三、治安
(一)敗残兵及抗日分子の摘出

治安確立の先決問題は城内外に於ける敗残兵及抗日分子の捜査摘出にして昨年十二年二十二日以降本年一月五日に至るの間に於て中島兵団の施行せる査問に協力し約四千名の敗残兵並抗日分子を摘出し一月六日より二月二十五日に至る間更に特務機関に於て天谷警備支隊の協力を得て城内外に■る査問を続行し約五百を摘出せり
此の結果良民として(老婆及十二歳以下の小児を除く)安居之証を交付せる者左の如し(概数)
中島兵団 一五〇、〇〇〇
特務機関 一〇〇、〇〇〇
計     二五〇、〇〇〇
難民の城門の通行に関しては厳重に之を制限しありしも情勢の推移に鑑み漸次之を緩和し二月二十五日以降無制限通行を許可したり

(二)一般治安状況

敗残兵及抗日分子の摘出工作と併行して自治委員会警察庁を督励して悪質犯罪者の検挙に当り難民区に於ける生活環境の不自然なるに来たして跳梁したる不正支那人を検挙懲戒し(約五百件)一般治安の確立に努めたる結果治安状態は概して佳良なり
隠匿兵器の捜査は警察庁及各区保甲組に於て極力之に努めつつありて捜査、発見したる兵器は莫大の数量(トラック五十台分)に達し然れとも今尚城内外に於ける隠匿兵器は尚多数あるものと判断し各機関を督励すると共に諜報及宣撫ビラを活用し之か押収に努めあり
皇軍入城後と雖も火災絶へす水道の不通、消防自動車の徴発の為当初は消火の術なく放置の状態なりしも水道の恢復及徴発消防自動車二台の返還を受けたるを以て一月中旬消防隊を編成して之を警察庁に編入したり、該消防隊の出勤回数は一月三十一回、二月■十八回にして失火数は之に数倍せるも兎も角之に依り火災の災害を甚しく防止するを得たり


四、市街清掃
(一)清掃隊の編成

市街、家屋の被損甚大にして著しく市容の美■を損傷するのみならす衛生の見地よりするも之を放置し能はさるを以て一月中旬約百名よりなる市街清掃隊を編成し之を警察庁に■せしめ連日主要道路及其の南側家屋の清掃を行はしめつつあるも地域広範にして人員不足の■なんとせさるを以て自治委員会にし大々的市街清掃を計画しあり

(二)紅卍字会の屍体埋葬

紅卍字会屍体埋葬隊(隊員約六百名)は一月上旬来特務機関の指導下に城内外に渉り連日屍体の埋葬に当り二月末現在にて約五千に達する屍体を埋葬し著大の成績を挙けつつあり


五、救済
(一)物資に依る救済

南京は純然たる消費都市にして従前物資貯蔵量極めて微少なりしに加へ支那軍の、兵站用物資は全部皇軍之を管理することとなりたる


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果本年初頭に於て早くも農民の食糧問題頗る切迫したるを以て之を機会に難民救恤の実権を国際委員会より奪取すへく軍に申請して其の管理物資の無料配給を仰き一月十五日以来米穀一一、二〇〇俵、麺粉一〇、〇〇〇俵、■三、六七〇俵の配給を受け右の中米二、〇〇〇表、麺粉二、〇〇〇俵、■五〇〇俵を救済物資として自治委員会救済課及各区公所を指導して貧窮難民に之を分配せり
当地に於ける要救済人員は大約六万にして当地の性質上直ちに授産の途なきを以て尚当分之か救済を実施せさるへからす一方自治委員会の財政は困窮せるを以て速に之か対策を講するは事たるを以て特務機関に於ても其の方途を研究しあるも班本部に於ても之か対策を議せられ度

(二)施療

第一区公所開設と共に之に支那人医師二名同看護婦二名同薬局二名計六名を置き施療に当らしめつつありたるも難民多数にして充分の効果を挙け得さりし為難民の施療は主として国際委員会の管理下に在る病院之に当り有りたるも斯の如きは固より之を傍観し得へき所に非す殊に春暖と共に悪疫流行の懸念深まり来れるを以て藤田部隊及天谷支隊軍医部及兵站病院の応援を得大々的に防疫及施療を施行すへく計画し二月二十七、八両日に於て各区に施療所を設置し三月上旬より実施せることとせり
は甚しく欠乏しあるも応急の措置として当分の使用量は軍より之を借用することとせり
其の他本夏は相当伝染病の発生を顧慮し「コレラ」、腸チフス等の予防接種に関しても目下計画中なり


六、難民授産
難民区解放の方針の下に原住所に帰還せしめたる難民の処置殊に其の授産は諸般の情勢上極めて困難なる事情に在り資金の枯渇と物資の不足とは城内商民の商業の復活を阻害し農具及家畜の喪失は城外農民の春耕に多大の不安を与へ居るを以て右■の悪条件を克服すへく各般の対策を考究中なるも応急の処置として

(一)公益事業従業員の復職

電灯、水道等公益事業か軍の手にあり復興の緒に就くや従前之等従業の経験ありし難民を招集して之に服役せしめたり
二月末日現在の公益事業従事難民数左の如し
電気 一六〇名
水道  六〇名
計  二二〇名

(二)軍使用苦力

軍に於て使用■へき苦力は一月上旬以来凡て特務機関之を斡旋することとなり常役、日雇を合し二月末現在特務機関に於て斡旋就業しめたる軍使用苦力の延人員は約一万人に達す
尚二月上旬自治委員会本部及各区に苦力収容所を開設し労働能力るも現在無職なる難民を収容し(二月末現在約五百名)軍の需要■応しつつあり

(三)各区内に小売商場を開設

■小なりとも営業資金を所持し居りたる者は原住所復帰と共に該所に簡単なる小売商店を開設し食料品、雑貨を主として販売したるか此の種小売商店を交通制限緩和に依る物資供給の漸増に伴ひ逐日増加し二月末日現在に於ては各区内主要街路は何れも小売商場となり相当殷盛を示しつつあり


七、物資供給
物資の供給を円滑、潤沢ならしむへく入城以来左の如き措置を講したり
(一)軍票交換所の設置

軍使用苦力に対する賃銀は凡て軍票を以てせられたる関係上軍に於て之を交換するの必要を認め一月五日先つ難民区に軍司令部直営の軍票交換所を設け米穀、麺粉を米一俵(十円)麺粉一袋(二円五十銭)にて交換したるか難民区の解散方針に依り一月十五日之を閉鎖して各区に(下関第五区を除く)一箇所の交換所を設けたり

(二)自治委員会の食糧直売


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派遣軍司令部より押収米穀及麺粉並■の無料配付を受けたる自治委員会は前記の如く其の一部を救済に充てたるも自治委員会の運用上財政を充実するの要あると難民の間に徒食の弊風生するを防止する為残部は之を一般難民に向つて販売することとし各区に直売所を設けて一月十五日以降米穀約九千俵、麺粉約八千袋を米一俵十一円、麺粉一袋三円五十銭にて販売したり
(右価格は軍票の価値維持の為軍票交換所より一円高とせり)

(三)物資蒐集の為調査隊を各地に派遣

物資蒐集の為一月下旬来楊州、鎮江、浦鎮、六合(治安悪しき為調査未了)漂水、蕪湖方面に自治委員会工商課員を主班とする調査隊を派遣し前記各地の物資調査に当らしめたるか此の結果相当多量の物資蒐集可能なりとの結論に到達し二月十五日自治委員会の斡旋の許に中央卸売市場(日用品銷售統制処)を開設したり

(四)中央卸売市場の開設

斯て中央卸売市場は二月十五日先つ食糧品雑貨を主たる営業品として開館したるか各地よりの物資の移集漸増し殊に下旬来宣撫班本部指定の在上海有力日本商店との取引の途も開けたることは本市場の前途に多大の光明を与へたり
各区に於ける小売商場の上に位置すへき真の卸売市場たるの資質に於て未た相当の不足なしとせさるも要は今後の運用の如何に在り
中央卸売市場の組織要項左の如し

日用品銷售処要項

一、株式組織、資本金十万元(一株十円、記名式)
一、利益金処分
配当四割、積立金一割、自治委員会経費の補助二割、発起人特別利益一割、同人奨励金一割、統制実施に依る失業者救済一割
一、市内日需品は総て統制処より統制売出しを行ひ売上額は本市商人貸付基金に充つ
一、悪質商人の価格操を防き民の安定をるを目的とし相当資金を調達して一切の日常需要品を平価にて販売す
各商品の専問者並自治会工商課員にて評価委員会を組織し価格を公定す
一、本処に総務、財務、貨倉の三部を置く
一、会計担任者を置き収支報告を毎日提出す
一、倉庫管理者を置き出入貨物表を毎日提出す

(五)対支那人販売商店の開設

難民の日貨需要に応する為酒保以外の日本商店十三店を指定し二月十六日より支那人に対し軍票を以て日用品を販売せしむることとせり



付表一
自治委員会組織表
■■■■■■■■■■■■■■■■■■┌総務課
■■■■■■■■■■■■■■■■■■├救済課
■■■■■■■┌委員■■■■■■■■├工商課
会長─副会長─┼─────秘書長──┼交通課
■■■■■■■└顧問■■■■■■■■├財務課
■■■■■■■■■■■■■■■■■■└警務課


 P156

付表二
区公所組織表
■■■■■■■■■■■■┌―総務組
■■■■■■■■■■■■├―戸籍組
■■■■■■■■■■■■├―宣伝組
区長――副区長―――――┼―救済組
■■■■■■■■■■■■├―保甲組
■■■■■■■■■■■■└―家屋組


付表三
警察庁組織表
■■■■■■┌総務科
■■■■■■├督察科
■■■■■■├保安科
庁長――――┼司法科
■■■■■■├衛生科
■■■■■■├刑務所■■■■■■┌―庶務股
■■■■■■└各区警察局――――┼―外勤股
■■■■■■■■■■■■■■■■├―保安/衛生股
■■■■■■■■■■■■■■■■└―司法股


建設概況
目次

一、日本人の進出状況
二、公共事業の復旧

イ、電気及水道
ロ、郵便、電信、電話及バス



一、日本人の進出状況

占領地の経営は資本的、技術的に日本人の進出を第一の要件とするか故に占領以来特務機関は派遣軍と協力一定区割を定め局部的、集団的に復興計画を定め一方に於ては日本人相互の摩擦を避け之か監督統制に遺憾なきを期したり
其の地域は北は国府路より南は白下路に至り西は中正路より東鉄道線路に達する一帯にして中に太平路及東中山路の繁華街を含む
而して南京上流の避難民にして将来当地に在留の希望を有し復帰せんとする者に対しては之に優先権を与ふること応急的措置として最必要とせられたり
斯くの如くして日本人の復帰並進出の勢漸く顕著となるに及ひ特務機関は、「臨時南京市居留邦人取締規則公示の件」(末尾添付)を公布し在留、営業許可及支那人家屋使用許可の事務を鞅掌せり因に家屋使用に付ては保存、立退並使用料の徴収に関し軍の命令に従ふへき旨の書き提出せしめたり


 P157

茲に現在日本人状況一覧表に依りて一般情勢を示すこと左の如し


一、在留法人数(軍人、軍属及領事館員を除く)

本邦人
朝鮮人
台湾人
二五〇
一一三
一六
五八
四三九


一、家屋賃下数其の他
家屋貸下数一四八
営業許可件数一四〇
同右開業数八八

営業種別

営業種別
許可数
同上開業数
営業種別
許可数
同上開業数
食糧雑貨
四二
三一
彫刻業
貿易商
文房具
煙草卸小売

医師
宿屋
歯科医
時計修理及販
飲食店
二二
一八
理髪
料理店
洋服店
貸席類似
運送業
カフエー
船舶運輸
喫茶店
自動車修理
菓子製造販売
印刷業
興行
陶磁器商
魚商
■■売業
豆腐屋
洗濯屋
写真屋
土木建築
質屋
皮具商
新聞通信
靴製造並修理
宗教
    計                      一四〇八八

南京に於ける経済の流通は交通機関の不備に伴ひ■■に物資の欠乏を告けたる為当初は酒保は固より一般商人に於ても支那人に対する商品の販売を禁し特に公共事業の職員又は日本軍に於て雇傭し又は使役する者に限り購入許可証を下付し軍票を以て日本人商店に於ける商品の購入を認めたり
斯くの如きは真に事情己むを得さりし所なるか一方に於ては軍票を給与し他方に於ては購入許可証を下付するは其の何れか通貨なりやを知らす軍票の信用に関しても障害あり其の間支那人の欠乏甚しく自治委員会の救済も到底及はさる勢あり漸く宣撫の必要強調せらるるに及ひ二月十五日「支那人に対する物品販売商店開設の件」(末尾添付)を定め一定商店(十三軒)をして軍票を以て支那人に対する商品の販売を定め別に物資統制委員会を組織することとなれり
尚自治委員会統制処の購買物品に関しても其の都度日本商人を斡旋紹介すると共に監督を加へ来れり
這般の事情は一欠不可の■き感を与ふるも内部に於ては当事者の常に論議の対象とせるところにして最劣慮せる所なり
以上の経過を辿りて南京市に於ける経済取引は次第に平常に復し反面城門通行の自由と共に日支人間の経済的結合は漸く緊密を加ふるも■と信せらる。茲に日支間の取引状況に関し稍紫説せるは将来の取引■主として支那人を対象とすへきは論なきところにして最参考の価値ありと思惟するに因る


 P158
臨時南京市居留邦人取締規則公示の件
首題規則左記の通制定本日之を公示す(昭和十三年一月五日)

臨時南京市居留法人取締規則
第一条南京市に居住する者は軍の占領地域たるに鑑み軍の定めたる規定を遵奉すへし
第二条南京市に住所を定めむとする者は到着の日より五日以内に本籍前住所、住所、職業、氏名及年齢を具記し南京特務機関長に届出つへし
但し家族、同居人、使用人にありては世帯主、雇用主より届出するものとす
第三条 居住に際し他人の家屋又は建物を使用せむとする者は南京特務機関長の許可を受くへし
許可を受け住宅又は営業所に使用中と雖軍に於て必要と認むる場合に於ては之か立退を命し又は原形に復せしむる等のことあるへし
第四条南京市にて営業を為さんとする者は南京特務機関長の許可を受くへし
第五条営業取締上必要と認むる事項又は遵守すへき事項は別に指示す
(第一条及本条の規定、指示等は南京特務機関より南京居留民会(未成立の間は掲示又は布告等適宣の方法に依る)に通告す)
第六条本則に違背したる者は営業の禁止又は退去を命する外軍法規に依り処断せらるることあるへし
第七条本規則は公示の日より之を実施す


請 書

一、場所
一、建物
■■■■■■■■■階建■■■
■■■■■■■同付属建物■■■
一、借用年月日
右今般軍に於て占拠に係る家屋御貸下相成候に就ては御指示に従ひ使用期間内必要なる保存方法を講するは勿論立退きを命せられたる場合は速に立退くへく又御命令の場合は相当の使用料を納め旧に復すへきことを誓ひ右茲に借用候也
■■■昭和■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■右借用人

■■■■■■■■■■■特務機関長■■■殿


支那人に対する物品販売商店開設の件

一、主として支那人を対象とする商店として差当り左記十三店を指定許可す

左記
(1)福田洋行■■■(8)思明堂
(2)東運公司■■■(9)三星洋行
(3)丸甲洋行■■■(10)西亜洋行
(4)衣川洋行■■■(11)本田商店
(5)日比野洋行■■(12)中村商店
(6)漠和洋行■■■(13)大石洋行
(7)鴨川洋行

二、右指定店は軍票に限り販売するものとす

三、指定店の売上軍票は軍経理部に於て■■日本銀行券と兌換す

四、支那人所要の軍票は必要に応し軍票交換所に於て兌換する外南京市自治委員会に取纏め兌換交付す
右兌換は必要に応し制限することあり


 P159

五、軍経理部、警備司令部、憲兵隊及特務機関より各一名の委員を出して物価統制委員会を組織し指定店の商品価格を統制す
(註)本件は二月十四日軍参謀長並軍経理部長の承認を経たるものなり


二、公共事業の復旧

イ、電気及水道
南京市に於ける軍隊並市民生活の安全に資する為電気及水道等の公共事業は至急復旧の要あるものと認め入城直後より之か運行開始を準備し軍直営の形式を以て運転し今日に至れり
概要左の如し

(一)施設概要
南京に於ける電気事業は国民政府建設委員会の管轄に係る首都電廠の経営せるものにして主たる発電所は下関に在り補助発電所一箇上坊門に在り能力前者三万粁、後者二千キロなり而して下関発電所は南京、鎮江間を大工業地帯とする国民政府の計画に基き尚増設計画を有するものの如し後者は主として街灯用に利用せられたるものの由なり
水道事業は南京市営にして城西揚子江の分流たる水を取入口とし一部は直接城内に配水一部は城内清涼山に押上け之より自然流下を以て配水せらる濾過装置建設中にして未完成なり而して水道用動力は平時発電所より電気の供給を受け運転せるも万一故障の場合予備としてディーゼルエンヂン五百馬力一台を有す

(二)被害状況
下関発電所は軍事施設として利用せられたる為昨年九月二十五日爆弾一箇を投下せられたるも幸に機械の主要部(ボイラータービン)に損傷なかりし為内線を切替へ十二月十二日迄運転を継続せり上坊門発電所は損傷無し外線の被害は火災に依るものを大部とし城内は一般に損傷比較的軽なり
水道取入口に故障なし唯清涼山■■池に至る鉄管爆破せ■■其の他送電線被害少からす漏水甚た多し同しく十二月十二日迄運転給水せらる

(三)人員整理
総体的に電気及水道設備は損害軽■なりしを以て之か復旧に付ては先つ技術及労働力の整備を必要と認め最初第十六師団は其の兵力中より技術関係者を集め一方特務機関は従前当該事業の従業員たりしものを求め十二月二十二、三日頃より復旧作業に従事することを得たり
支那人職工に関しては当初戦争の恐怖甚しき為先つ生命の保護、住居の安全及糧食の給与を条件とし腕章の作成、保護、地区の■定、米其の他副食物の配給等万全を期したり而して給与に関しては一般の労働条件に鑑み一月中旬第十六師団より派遣軍経理部に引継の後一定の賃銀を軍票を以て支払ひたり現在支那人従業員電気事業百六十余名、水道事業六十余名なり

(四)復旧作業
電気及水道の両事業は相関関係に在るか故に初め先つ電気の復■に依り自ら水道の■行を開始することを得るものとし作業を■■


 P160

たるも南京市の飲用水欠乏漸く甚しき為水道はスペアナル・デイゼルエンヂンを運転することとし作業に着手せり。一方電気は当初下関発電所より着手せるも機械設備大にして補助発電所なくしては通風並給水を得す圧力上らすボイラーに危険を感したる為直に中華門外六里の地点に在る上城門発電所を試運転し途中城外外線に多大の損傷ありしも昼夜兼行電気水道両々本年一月一日より一部軍隊の利用に供し次て下関発電所の復旧と共に水道用電力も之より供給を受け漸時需要範囲も拡大して今日に及へるものなり。尚上坊門発電所は現在運転休止、清涼山に至る鉄管は殆と修理を完了せり
電気及水道の両事業は今日に至る迄軍直営の形式を以て経営せられたるも移動性ある軍隊の当然の結として其の経営主体は第十六師団より派遣軍経理部へ更に第三師団経理部へと順次変更せられたり
当初は技術並労働力不足の為専ら軍隊の需要に応する第一義とし所轄部隊の許可を得て供給せり。然れとも電気及水道の需要か日常生活に不可欠の要件たる為且宣撫工作促進上最好個の動力たる為其の利用は現在無償にて広く一般に解放せらるるに至れり
所要の技術並労働力の不足に関しては■に軍特務部より興中公司宛発せられたる指令に基き興中公司嘱託として電力連盟より電気従業員八名、東京市より水道従業員二八名来京し現在は専ら軍応援の形式に於て各専門を担当せり
興中公司か不取敢軍経営の両事業を引継かんか為には諸多の準備を要する所にして先つ人員に関しては上述の外尚発電所関係(火力班)九名及内外線関係一五名来京の予定にして前者は本月九日到着に決定せり之と共に従来の電気作業員は内外線に配置し更に之を増員せんとするものなり。所要の輸送能力に付ては現在トラツク二台、自動車二〇台、其の他乗用■一台を有せるも更にトラツク3台を送付せしむることとなれり。給与に関しては第一に宿舎は不取扱従前通とし糧食第三師団と協議の結果交通並一般経済の復旧に至る迄当分軍に於て考慮することに諒解ありたり。賃銀に付ても不取敢従来の例による
現在興中公司は中山東路江蘇銀行を事務所として諸般の準備を進めつつあるも将来軍の経営を引継き下関事務所を城内に移すに当り社屋狭隘の為更に拡張を企図しあり
大略上述の準備を以て興中公司は三月十五日を期し第三師団より引継を受くることに内定せり
之を要するに今日最必要なるは特務部指令の趣旨に則り興中公司をして新国策会社の設立法人たるの任務と意義を理解せしめ即刻占領地権益経営を行はしむるに在り



ロ、郵便、電信、電話及バス

(一)郵便
郵政は其の性質上国家的企業に属するを以て之か経営に付ても新政権の成立を待望すること最多し。然れとも占領地行政の平常化に伴ひ之か復興の必要■痛感せらるるに及ひ逓信省の調査並立案に基き将来成立すへき新政権の下に着々準備を進めつつあり
南京市政府に於ては差当り左の管理局及支局を予定せらる

(1)郵政管理局(南祖師巷、元交通総長官邸使用)
(2)中華楼支局(原局舎を其の儘使用)
(3)昇州路支局(〃)
(4)三牌路支局(〃)
(5)太平路支局(萬全■飯館子なる建物を使用)
(6)珠江路支局(上海銀行支店を使用)

右家屋に対しては「南京市郵局房屋」なる制札を掲出し其の他従業員の宿舎に充つへき家屋に対しても立入禁止の票札を貼付せり水道電気の引込に関しても手配中にして上海より到着すへき人員整備に伴ひ三月上旬再開の見込なり

(二)電信、電話
南京占領以降応急の需要に対しては専ら通信隊の活動に俟て今日に至るも事業の技術性に鑑み至急専門家の派遣方上海宛打電し近


 P161

日到着の予定なり。本件に関しては官営或は民営の根本方針■■し特務部より確報なき為打合手配中なり
尚従来平和撹乱の宣伝に於て有名なる放送局は当然一括経営を至当と認めらる

(三)バス
南京市は近代的道路設備を有するを以てバス事業の経営に適当なり、且■本市は市街電車なく従来下関より中華門に至る軽便鉄道以外は市街の近代的交通機関は所謂江南公共汽車のみに頼り此に鑑み■に応急に興中公司に対し之か計画並実行を命しありたる所其の出願に基き特務部より興中宛本件に関する指令あり
爾来之か操業開始に関し待望久しかりしか内地の生産力十分ならす延々として今日に至れり。其の間ガソリンの補給に関しても困難を感し軍特務部宛之か便宣供与方依頼せり。斯くの如くして漸く三月九日不取敢バス二台を上海より廻送の旨の電報に接せり。本事業に要する車庫及職員宿舎は中正路元江南汽車の施設を準備せり
之より先バスの需要多きに鑑み従前江南汽車所有の車体にして軍の使用に属するもの■以てバスの運行を計画せるも部隊の容るるところとならす最近部隊の移動に伴ひ漸く廃棄の車体多きを見るに至りたる為修繕可能のものは至急修理せしめ車体の不足を補ふを適当とし手配中なり


南京班第三回報告(三月中状況)
宣撫概況

一、南京市自治委員会
(一)自治委員会の庁舎移転
(二)假区公所の増設
(三)自治委員会の財政
(四)現在の財源
(五)総商会の設立

二、難民区の解散

三、難民の現住地復帰状況

四、上海方面帰還難民

五、治安関係
(一)良民への安居証下付
(二)敗残兵及抗日分子の摘出
(三)一般治安状況
(四)隠匿兵器
(五)自治委員会・消防隊の編成

六、市街清掃
(一)清掃隊編成
(二)屑鉄蒐集
(三)紅卍字会の死体収容

七、救済
(一)物資に依る救済
(二)南京に於ける要救済人員
(三)施療

八、難民授産
(一)公益事業従業員の復職
(二)軍使用苦力
(三)各区域内の露店小売市場開設

九、小学校開校準備

十、法幣暴落に依る自治委員会財政の不安


 P162
一、南京市自治委員会

(一)自治委員会の庁舎移転
昭和十三年一月一日成立の同委員会は旧首都警察内に執務中の所多大の不便と狭隘を感したるを以て是を警察庁のみの庁舎に当てて自治委員会は三月末日を期し元司法法官訓練所跡に庁舎の移転を完了せり

(二)假区公所の増設
一月末開設の城内四城外(下関)計五区の既設区公所の外民衆の要望と相俟つて治安工作の見地より市内(城外地区)三箇所に假区公所増設の必要に迫られ三月下旬其の規定を見たり
「上新河、燕子磯、孝陵街の三地区とす」

(三)自治委員会の財政
二月中に於ける自治委員会の収支を対照するに

1、収入■■■■■■五一、三五七、四四元
内訳
大使館下付■■■■■一、〇〇〇、〇〇
工商課■■■■■■四八、六九六、〇三
桂副会長立替■■■■一、〇〇〇、〇〇
救済課(前月端数)■■■■■■■、四一
一月分残現金■■■■■■五六一、〇〇

2、支出■■■■■■■四六、九三四、〇〇元
内訳
総務課■■■■■■■二〇、二〇〇、〇〇
財務課■■■■■■■■■■二四〇、〇〇
交通課■■■■■■■■■■六二〇、〇〇
警察庁及警務課■■■■八、二〇〇、〇〇
第一区公所■■■■■■二、四〇〇、〇〇
第二区公所■■■■■■四、〇〇〇、〇〇
第三区公所■■■■■■一、五〇〇、〇〇
第四区公所■■■■■■二、七〇〇、〇〇
下関区公所■■■■■■一、〇〇〇、〇〇
図書館■■■■■■■■■■■七四、〇〇
桂副会長立替金返還■■三、〇〇〇、〇〇
南京市総商会■■■■■三、〇〇〇、〇〇
計四■■■■■■■■■六、九三四、〇〇
月末残金■■■■■■■四、三二三、四四元

(四)現在の財源
自治委員会の財源物色には各個所に於て極力研究しつつあるも経済資源に乏しく而も貧窮の三十八万人口を擁し要救済者七万を下らさる実状よりするも早急に財政の確立を期するは蓋し至難の事に属するを以て難民の糧食統制の一方当分の間米穀直営に依る利益を以て委員会の主要収入たらしめつつあり然るに愈々南京市又は付近の敵産物資も既に完了せし為背後地に於ける生産地方よりの物資輸入に関する手配に着手しつつあり次に本地区内に貯蔵しありたるは元来専売制度を実施しありたるも此の儘放置せは蒸気吸収の為使用不能に陥り易き為漸定的処置として自治委員会の販売に委ね同会にて公■を設立し別会計としての販売に着手せり
尚城内に散在せる人力車の大修理を開始し既に七百数十台を城内地区の営業に当らしめ人力車税の徴収を開始せる等の程度たり
然して一方道路清掃隊と相俟つて極力鉄屑の蒐集に当らしめ既に六百噸内外を集積しつつあり


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(五)総商会の設立
当班に於ては南京市の急速なる市場恢復の為に且南京市自体の特殊性に鑑み総商会の必要を認め之か設立を許可せり斯て去る二月七日より■備員五名の手に依り準備工作は進められ三月七日南京市総商会■備会の発会式を挙行せり(会章は前に報告せり)


二、難民区の解散
一月八日より国際委員会包含の難民区解散に着手し二月下旬迄に殆と其の解散に成功したるも尚多数の残留者ありたるを以て徹底的に其の誘導に努めたる結果三月上旬殆と完了の域に達せり尚残留の者は
1従来同地区内に居住せる現第四区民たる者
2日本人特別地区内に居住を許ささる為其の一部残留者及下関地区の全滅的焼跡に復帰し得さる者の一部並上海方面の沿線地区に■還すへき者の若干にして逐次各区収容所に収容しつつあり従つて難民の約九五%は第四区区民と称され得へし通称難民区の名称も自然消滅の内に第四区と称されつつあり


三、難民の現住地復帰状況
自治委員会並各区公所の活発なる活動に依り逐次復帰者の数を増し既に南京の人口三十八万を下らさるものの如く然して各区公所に於ける登記人口のみにても二十三万五千人を突破せり今各区に於ける復帰者登記人口を見るに次表の如し

区   別
三月末登記数
三月末登録数
第 一 区
六九、〇六七
七八、六三九
第 二 区
六五、二二二
七七、六九四
第 三 区
一九、二〇六
三六、〇三六
第 四 区
一二、〇〇七
三二、四七三
下 関 区
■■七、〇〇〇
一〇、二一四
一七二、五〇二
二三五、〇五六

尚各区指定個所の小売露店市場は是等復帰者の住来に依り■盛を■めつつあり
復帰したるも資力無く職無き者又は老幼婦女子、不具者、病弱者等独立生活の能力無き者に対しては各区公所に於て適当家屋に収容し救恤施米を実施しつつ極力授産に努めつつあり


四、上海方面帰還難民
第一次送還の分約一千名
第二次送還末了の分約八百五十名(手配完了)
第三次送還手配未了の分約一千名内外の見込
但し列車假営業開始の上は第三次以降の者は比較的減少の見込み


五、治安関係
(一)良民への安居証下付
第一次十五万
第二次十万計二十五万(二月中旬迄に打切る)
第三次三月中旬より依名再下付に着手(現在約三万、配給)

(二)敗残兵及抗日分子の摘出
第一次四千名
第二次五百名
第三次数十名

(三)一般治安状況
第一次より第二次に至る間自治委員会及警察庁を督励して不正支那人の検挙に当らしむ約五百件に達し第三次に於て百数十件に達しあるも概して小雑件に止まる
城内に於ける爾後の治安状況は概して良好なるも城外地区の南京市内上新河並燕山磯方面に於ける不逞分子は稍其の数を増し之等不逞分子の侵入者も少からさるものの如く蓋兵隊並に警察庁方面との連絡の下に治安関係一切の手配考究中とす

(四)隠匿兵器
既に発見したる兵器はトラック五十台分に達せり城内外にも尚多数の兵器あるものと予想し布告其の他の方法に依り極力其の摘出に努めつつあり

(五)自治委員会消防隊の編成


 P164
出動回数一月三十一回、二月四十八回、三月二十二回
失火数は二千戸以上に達せり
消防ポンプ僅かに3台(内一台は破損)「元の南京市消防隊は十数台の消防自動車を有せりと言ふ」

六、市街清掃
(一)自治委員会にて清掃隊を編成せしむ
出動人員一月一〇〇名
二月一五〇名
三月三〇〇名(内下関方面二〇〇名)

(二)屑鉄の蒐集
一方自治委員会財源捻出の一助として三月中旬より城内外の屑鉄蒐集に当らしめ極力其徹底方に就て研究中にあり
尚蒐集基金無き為差当りの応急処置として難民其他に各自持参せしめ百斤五十■にて買収せしめ既に七百屯内外を集積せり

(三)紅卍字会の屍体収容
本会の屍体収容工作開始以来既に三ヶ月々として其■清に当りつつある点真に賞讃に価すへく而も何等訴へる事無く遂に彼等全額の準備金は既に消費し蓋し最近に至り初めて行動不能の域に達したる旨の■願あり
尚各城外地区に散在せる屍体も少からす然して積極的作業に取かかりたる結果著■の成績を挙け三月十五日現在を以て既に城内より一、七九三、城外より二九、九九八計三一、七九一体を城外下関地区並上新河地区方面の指定地に収容せり
春暖に伴れ更に収容埋葬に■数を要する事となり疫病の発生其の他を考慮して極力其方策に対し講究中なるか既に紅卍字会のみの資力にては到底至難の業たる事も明白となり何等かの方法を以て資金援助の方途を講すへき時機に逢着せり現在使用中のトラック毎日五―六両人夫二―三百名を要し既にガソリンの補給並人夫賃捻出も同会にては其方途無き迄に立至る
然して右収容開始以来同会の消せし金額は一万一千一百七拾五元に及尚埋葬と称するも只アンペラ包の儘該地区一帯に大部分は放置しある状況にして、埋葬済み以前の屍体の土盛並墓地の消毒作業は絶対的な必要条件と思考せらる同会作成の予算表に依れは右経費八千九百五拾元を計上しあるも同会としての今後の活動は全く不可能の域に到達したる為右経費援助に関し目下研究中にあり


七、救済
(一)物資に依る救済
一月十五日以降二月末の分
■■■■一一、二〇〇俵(内二、〇〇〇俵は貧民施米)
面粉■■■一〇、〇〇〇俵(内二、〇〇〇俵は貧民施量)
■■■■■三、六七〇(内三〇〇俵は貧民施量)
三月に於ける
救済米■■■六、〇〇〇(内四、〇〇〇俵は蕪湖より仰く)
豆油■■■■■三八七壺(浦口倉庫より一壺二〇〇―三〇〇斤)

(二)南京に於ける要救済人員
一月約十五万、二月約七万五千、三月約六万八千

(三)施療
第一区公所一月以降支那人医師二名、支那人看護婦二名、支那人■■■二名、計六名を以て施療に当らしむ
第一区公所三月以降日本医師一名増加応援しつつあり


 P165
(目下無給)
四月上旬より右第一区公所庁舎を元憲兵司令部に移転の上現第一区公所(元民衆病院)を南京民衆病院として開放其手配中にあり之に充当すへき経費は外務省文化事業費よりの援助を待つ事とし既に之か着手に任しつつあり
第二、三、四の各区公所に於ては三月上旬より日本軍診療所開設施療に当りつつあり
一方薬材等充分ならす敵産品使用中なるも三十八万の人口都市の立場より尚研究を要すへき点僅少ならす


八、難民授産
難民区解散後に於ける原住所帰還者の難民の処置特に其授産に対しては諸般の情勢上極めて困難なる事情にあり物資の不足と相俟つて資金の枯渇金の道無き現在に於て城内商民の商業復活を阻止し農具及家■の喪失は城外農民の春耕に多大の不安を与え居るを以て之等の悪条件を克服すへく各般の対策を考究中なるか応急の処置として
(一)公益事業従業員の復職
電灯、水道等の公益事業か軍の手にあり復興の諸に就くや従前之等に従事せし経験ある難民を招集して之に服役せしめたり
電気約二〇〇名、水道約一〇〇名、其他自動車運転手約一〇〇名
郵局開設に依り約三〇名計四三〇名

(二)軍使用苦力
斡旋せる当日雇苦力延人員約三万人に達す、各区に苦力収容所を設置■ルンペン群の動員を極力督励しつつあり

(三)各区区城門の露店小売市場開設
交通制限緩和に依る物資供給の漸増に伴ひ逐日増加の傾向を示し食料品■■を主とする露店小売商の進出に依り要救済者の数を逐次減少しつつあり


九、小学校開設準備
本部の指示を俟て開校すへく既に各区共準備手配中なるも現在の処其経費捻出に一頓座を来しつつあり


十、法幣暴落に依る自治委員会財政の不安
本月下旬来の法幣暴落並相場の混乱に依り自治委員会の財政に不安を感するに至りたると共に法幣収受拒否の為日本側との物資購入取引不能に陥り且つ当地にては法幣を以て金円に兌換する方法無き為之か対策を考究中なり


十一、維新政府成立式典挙行当日に於ける民衆指導
維新政府成立に際しては当班は各方面とタイアップして民衆方面に関する一切の宣伝、治安、行進指導等を一手に引受け自治委員会、区公所、警察庁を総動員し万遺漏無きを期したり斯て当日は三万の大衆手に手に五色の小旗を打振り南京市主幹道路を大行進し式典場旧国民政府建物前に於ては政府要人並民衆をして深く感激せしめ絶大なる効果を収たり
使用せる宣伝ポスター十万枚、爆竹三十五万


南京建設概況(三月
目次
一、一般経済の復興
二、公共事業
■■電気及水道
■■通信及交通
■■■■(一)郵便
■■■■(二)電信、電話
■■■■(三)バス


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一、一般経済の復興
南京入城以来当地の復興は先つ日本人の進出に鑑み之か監督統制を主眼とし難民を主とせる支那人の経済的復興は之を顧みるに暇なかりしか事態の平静に伴ひ先つ商会の設立あり市面の流通に依りて、諸多の営業開始せられたる為本機関に於ても三月下旬頃より商会と連携之か側面的援助を行ふこととせり商会の調査に依れは現在営業開始七百四七件に及へり
一方に於ては領事館再■せられ従来の営業許可は事の性質上表面上領事館に移譲し唯家屋使用許可は本機関に於て指導しつつあり
一般営業許可中特に注目すへきは下関に在る揚子麺粉公司工場の復興にして元重慶居留民会長をして経営せしむることに方針を決し上海特務部に報告し其の許可を得たり本件の趣旨は同工場を大同麺粉公司と合併、日本側は重慶居留民の再起を図るに在り因に同公司は民国二十年の成立に係り資本金三十万円なりしか営業不振の為此処一二年間大同麺粉公司に委任経営せられたり江蘇省鑑によれは同公司工場はローラー十二台毎年実需小麦六十万■、毎年産粉能力百二十万袋、毎年実生産麺粉百万袋なり
工場は揚子江分流なる挟水に沿ひ鉄筋コンクリート建にして主要機械はアメリカ製なり唯支那軍の軍事施設に利用せられ敗走の際倉庫並宿舎を焼失し工場の一部に延焼せり工場堅固地の利佳にして大約二箇月後運転復旧の見込なり
次に気候漸く温暖なるに従ひ衛生の見地より製氷工場の復興を急務とし不取敢通済門外七里街九■氷廠を支那人をして経営せしむることに決せり同工場は民国二十一年成立せるものにして一日の製造能力四頓製氷用水は水道水を用ひす■■の水を使用す
茲に通貨問題に隣し一言すれは軍経理部の意向は軍票の流通を促進するに在るか故に本機関も之に応し日本商店にして支那人に対し商品を販売する者は軍票に限り販売せしむることとせるか軍の移動あり軍票と金円の交換円滑を欠き小商人にして軍票を多く所持し新に商品の任入に困難を感する者漸く出て本機関に対し之か斡旋申請ありたる為師団経理部に度々之か実情を説明せり斯くの如くして三月二十三日中支那派遣軍の指令に基き今後は師団経理部に於て憲兵又は軍隊の証明あるものに限り■宣邦価と交換し得ることと■れり三月下旬南京に於ける支那人に対する物資販売指定商二十一軒を調査せる所によれは軍票手持総額約2万円なりしか主と■て小商人なる為相当金融硬を来せるものの如し
最後に日本人進出概況は一、在留法人数七二二名二、営業許可数一八一件三、開業数一〇五件にして詳細は以下統計の如し


前住所別人口統計表(三月末日)

前住所別/男女別
揚子江上流地方
一〇二
三九
一四一
上    海
一五二
四七
一九九
    地
一四七
一二五
二七一
朝鮮及台湾
■■
一八
二六
其の他(北支大連)
二六
五八
八四
四三五
二八七
七二二


営業許可数及開業、未開業別調査表
(三月末日現在)

営業別 許可数 開業数 未開業数 摘要
緬粉工場    
貿易商  



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船舶運輸業    
自動車運輸業

 
自動車修理業    
土木建築業    
建築材料商    
金物陶磁器商    
電気器具商    
自動車商    
自転車商    
写真撮影器具商  
菓子製造販売業  
靴製造販売業    
大工左官    
看板業    
保険業    
綿布商    
印刷業    
書籍文具商  
皮革商  
時計商  
医師    
歯科医師  
■種商    
■■及部分品化粧品販売商    
煙草卸商    
豆腐製造業    
浴場    
映画演劇場  
百貨店業    
洋服商    
雑貨商 一五  
食料品商 二二 一九  
酒清涼飲料水商    
質屋古物商    
旅館営業 下宿屋を含む
料理屋業 芸妓置屋
貸座敷業 一一 軍専属六件
割烹業    
飲食店業 三一 二五  
カフエー営業  
喫茶店営業  
鮮魚商  
海産物商    
呉服小間物    
洗濯染色業

 
理髪業

   
一八一 一〇五 八三  


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二、公共事業

イ、電気及水道

電気及水道の両事業は入城以来最早く其の必要痛感せられ実際当初に復旧作業を開始せるものにして本年一月一日より利用せらるる所となれるか其の詳細は前報告に■説せる所なるも以て茲に省略す
爾来本両事業は内外両面の不可避的原因に因り今日迄軍直営の形式を以て経営せらる其の内的原因とは興中公司の人員不足且又内地より初めて渡航せる者なる為支那人に対し■■■■を抱く者多きと軍目■の需要か大半を占め軍の経営を■利とせるものにして其の外的原因■は警備、輸送力及支那人に対する現物の給与■軍の力を■■に非れは到底之れを全うするを得さりしなり第三師団の交替以来経理部は特務部指令を尊重し大■三月中に興中公司をして■■かしむることに予定せるか準備進ます更に半ヶ月延長の已むな■に至れり三月中の興中公司の陣容整備に付■■十一日新に火力班十名■京発電所作業に従事し之と共に従来の職員は内外総て専門に■当し城内に移転せり従つて現在人員は事務員所長以下九名技術員電気火力班十名内外線班十三名水道は当初と同しく二十八名なり
運転中の事故に付ては三月中旬発電所内線に黒猫か飛ひ込める由にて停電あり下旬にかけて水道薬品不足の為用水甚しく浸濁せり
第二師団は一方に於ては之より夏季に向ふ南京の衛生状態の重視し諸般の対策を講しつつあるも本両事業に於ても当今部隊警備の為却々一般の需要には応し難き実情なり且又軍の経営として無償にて一般の利用に開放せらるるは事業の経済的意義を没却するものにして一日も早く興中公司をして引続かしめ軍特務部の監督の下に料金の徴収を開始せしむるを至当とす

ロ、通信及交通

(一)郵便
懸案中の中支占領地域に於ける郵便事務は三月二十五日を期し先つ第一着手として南京より之を開始せり部隊宿舎に充てられたる■康路支局も部隊の意ある配慮に依り移転し四月上旬開始の見込を得るに至れり
現在の郵便事務は普通及書留郵便の二種にして大凡四月上旬より達、小包及価格表記郵便物を開始する予定なり而して集配■配達夫は使用するも郵便函を用ひ■管理局及各支局に於て受付つつあり
三月二十五日より五日間の郵便切手販売総額は九百十八円六十八銭を計上せり切手に付ては当地に手持なかりし為開局に先ち本機関に於て旅行証明を交付鎮江に赴かしめ漸く実際の需要に応するを得たる次第なり
現在江蘇郵■管理局在京人員は管理局二百一三名其の他二百四八名合計四百六一名なり
尚鎮江、■州、常州、無錫及蘇州の郵便事務視察の為旅行証明を発給せり

(二)電信、電話
三月下旬日本無線電信株式会社当地の無線電信事務準備の為来京軍通信隊、師団指令部とも打合せたるに依り直に適当なる発受信施設箇所及営業を物色せしめ当初軍通信隊に近き旧中央党部北部の地を予定せるも営業所の関係上結局太平路西方旧国民大■院後方の地にアンテナ及事務所を設置し、営業所は太平路旧中華■局を利用し大体四月上旬事務開始の運ひに至れり、無線電信に付ては海軍より機械器具の補給を受くることに内定せる由なり
電話業務に付ては再三上海特務部長宛技術員派遣方要請せるも応答なく且旧電話局の復旧は相当の日子を要すへき見込ありたる為本機関は軍通信隊と協議し一般の需要に応する為三月十七日午前本機関に於て打合せ会開催せり当日出席者は軍通信隊、師団指令部兵站指令部、憲兵隊、支那側自治委員会及日本側居留民会を網羅し左の決定事項を作成せり

(イ)電話線局の復旧は至急に困難なるに付き不取敢手廻機を以て民間の治安並連絡上必要の最小限度に於て電話の開通を図ること


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(ロ)電話総局の復旧は軍特務部の方針に基き適当なる会社をして復旧せしむること
(ハ)電話交換所は特務機関内に設置すること
(ニ)労力の提供並外線の補給は軍通信隊の担任とすること
(ホ)電話機は支那側の有するものを特務機関にて收使用に供すること、不足部分に就ては特務機関に於て処置すること
(ヘ)民間(支那側を含む)電話加入希望箇所は特務機関に於て■■すること
之に依りて本機関は不取敢自治委員会の蒐集せる手廻機を軍通信隊に移管し又民間電話要架設箇所を作成提出せり
次いて下旬上海特務部より逓信省技手三名派遣あり一■の下請に来京せるに付き全面的復旧に関する当地の要望につき詳細なる連絡依頼せり、尚派遣員の希望に依り太平路南潤徳里に在る電■收発所には立入禁止の制札を掲出せり

(三)バス
南京市内のバス事業は本年一月二十五日興中公司宛特務部指令「南京市内乗合自動車経営に関する件」に基き久しき待望の中に漸く三月十日より不取敢新車2台を以て運転を開始するに至れり
其の運行経路は第一路線を南京駅より新街口経由中山門に至る往復とし第二路線は南京駅より同しく新街口経由太平街に至る間の往復にして列車発着に連絡するを目標とし始発午前六時四十分、終発午後七時にして其の間約一時間毎に運転す、料金は全線を六区に分ち一区五銭、軍人は半額とす、尚兵站部の需要多き為バス一台の貸切料一時間6円として提供せり
其の営業状況を見るに常に満員の盛況を呈し一台一日の走行粁数九百九十粁、ガソリン使用量九四ガロン、支那人運転手並女車掌(支那人)を使用し一日平均収入約六三円を示せり
南京に於ける交通機関はバスを唯一の生命とするか故に之か不足は一般の■■痛感せる所にして過日興中公司取締役来京の節も事情■々説明し同感を至急手配すへき旨の言質を得たるに付き四月上旬には増車の可能性あるものと期待せらる