第一章 通 則
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第一条 |
本規則に於て俘虜と称するは帝国の権内に入りたる敵国交戦者及条約又は慣例に依り俘虜の取扱を受くべき者を謂ふ
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第二条 |
俘虜は博愛の心を以て之を取扱ひ決して侮辱虐待を加ふべからす
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第三条 |
俘虜は其の身分階級に応じ相当の待遇を為すべきものとす但し其の氏名及階級の訊問に対し誠実に答へざる者其の他の犯則ありたる者は此の限に在らず
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第四条 |
俘虜は帝国陸軍の紀律に依り取締を為すの外猥りに其の身体を拘束すべからず
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第五条 |
俘虜は軍紀風紀に反せざる限り信教の自由を有し且其の宗門の禮拝式に参与することを得
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第六条 |
俘虜不従順の行為あるときは監禁、制縛其の他懲戒上必要なる処分を之に加ふることを得
俘虜逃亡を図りたる場合に於ては兵力を以て防止し必要の場合には之を殺傷することを得
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第七条 |
宣誓せざる俘虜逃亡を遂げずして再び捕へられたるときは懲戒処分に附すべし
前項の俘虜逃走を遂げたる後再び俘虜と為りたるときは前の逃走に対しては何等の罰を加ふることなし
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第八条 |
俘虜の懲戒の方法は前諸条に規定するものの外陸軍懲罰令に準じ其の犯罪は陸軍軍法会議に於て審判す
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第二章 俘虜の捕獲後送 |
第九条 |
俘虜とすべき者を捕獲したるときは直に其の携帯品を検査し兵器弾薬其の他軍用に供せらるべき物品は之を沒収し其の他の物件は特に之を領置するか又は便宜本人をして之を携帯せしむべし
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第十条 |
前条の俘虜中将校にして特に其の名誉を表彰するの必要ある者に眼り軍司令官又は独立師団長は本人所有の刀剣を携帯せしむることを得
前項の場合に於ては其の氏名及事由を大本営に報告し大本営は之を陸軍省に通報す携帯せしめたる兵器は俘虜収容所に於ては領置すべきものとす
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第十一条 |
軍司令官又は独立師団長は戦闘後敵軍と協議の上其の捕獲に係る俘虜中傷者病者を送還又は交換することを得又時宜に依り同一戦争中再び戦闘に従事せざる旨の宣誓を為したる俘虜を解放することを得
前項の場合に於ては其の階級員数及事由を大本営に報告し大本営は之を陸軍省に通報するものとす
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第十二条 |
第十二条 各部隊は其の捕獲したる俘虜の氏名、年齢、身分、階級、本籍地、本国の所属部隊及負傷の年月日場所を訊問して俘虜名簿及俘虜日誌を調製し且第九条に依り沒収し又は領置したる物件に付物品目録を調製すべし
前条に依り俘虜を送還若は交換し又は宣誓解放を為したるときは之を俘虜名簿に記載すべし
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第十三条 |
俘虜は之を将校及準士官以下に区別し最寄兵站若は運輸通信官衙に護送すべし
前項の場合に於て領置したる物件、俘虜名簿、俘虜日誌及物品目録は共に之を送付すべし
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第十四条 |
軍隊又は兵站若は運輸通信官衙は海軍指揮官より俘虜引渡の協議ありたるときは領置の物件、俘虜名簿、俘虜日誌及物品目録と共に其の俘虜の引渡を受くることを得
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第十五条 |
軍司令官又は独立師団長は其の後送せむとする俘虜の員数を迅速に大本営に報告し大本営は之を陸軍省に通報す
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第十六条
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陸軍省前条の通報を受けたるときは其の俘虜を受領すべき港湾其の他の地点を大本営に報告し大本営は同地点に俘虜の到達すべき時日を陸軍省に通報す
陸軍省に於ては海軍俘虜の引渡に関する通報を受けたるとき亦同じ
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第十七条 |
第十三条又は第十四条に依り俘虜の引渡を受けたる兵姑若は運輸通信官衙は俘虜を前条の地点に護送し領置の物件、俘虜名簿、俘虜日誌及物品目録と共に之を陸軍省の命じたる受領員に引渡すべし
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第十八条 |
本章に於て大本営とあるは大本営の設けなきときは参謀本部となす
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第三章 俘虜の収容及取締 |
第十九条 |
削除
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第二十条 |
俘虜収容所は俘虜の名誉健康を害せず且其の逃走を防止するに足るべき陸軍建築物又は寺院其の他の家屋を以て之に充用すべし
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第二一条 |
俘虜収容所を管理する軍司令官又は衛戌司令官(以下単に俘虜収容所管理長官と称す)は俘虜収容所服務規則を定め陸軍大臣に報告し俘虜情報局長官に通報すべし
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第二二条 |
削除
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第二三条
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削除
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第二四条 |
削除
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第二五条 |
削除
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第二六条 |
俘虜の発受する郵便物は条約に依り郵税免除の特典あるを以て俘虜収容所管理長官は俘虜所在地郵便局に協議し之に関し相当の手続を定むべし
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第二七条 |
俘虜収容所に於ける取締に関する規則は俘虜収容所管理長官之を定む
前項の規則は之を陸軍大臣に通報し俘虜情報局長官に通報すべし
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第四章 雑則 |
第二八条 |
敵国の病者傷者にして病院及繃帯所に於て治療の後兵役に堪へずと認めたるものは同一戦争中再び兵器を執らざるべき旨の約定を為さしめ之を本国に送還すべし但し戦争に重要なる関係ある者は此の限に在らず
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第二九条 |
俘虜の所有品にして帝国官衙に領置したるものは解放の際之を本人に還付す
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第三十条 |
俘虜死亡者の遺留品及遺留金は其の所轄軍隊、官衙、病院又は繃帯所より之を俘虜情報局に送付すべし但し遺留品中保存に堪へざるものあるときは之を売却して其の代金を送付す
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第三一条 |
俘虜の遺言書は其の所轄軍隊、官衙、病院、又は繃帯所に於て帝国軍人の遺言書と同一の取扱を為し俘虜情報局に之を送付すべし
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第三二条 |
削除
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第三三条 |
慈善行為の目的を以て適法に組織せられたる俘虜救恤協会より直接に俘虜を救恤せむことを出願したるときは俘虜の取締規則に違反せざる旨書面を以て約定せしめたる上之を許可することを得
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附則(昭一八陸達五七)
本達は昭和十八年八月一日より之を施行す
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『俘虜に関する諸法規類集(十五年戦争極秘資料集11』
茶園義男編・解説(不二出版)P19〜23
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