戦 数

『国際関係法辞典』国際法学会編、三省堂(1995年 8月第1刷発行) P488

戦数
〔独〕Kriegsraison,krieksnotwendigkeit 〔英〕militery necessity 戦時国際法を逸脱できる正当な事由としての必要ないし緊急な事由。戦時の必要は戦時の慣例に優位するとし、戦争の目的達成のためには、戦時慣例を破ることを含む必要なあらゆる行為が許されるとの考えに基づく。ドイツを中心に論じられていたが、国際法の原則としては確定せず、同様の行為を認めるにしても、この理由では否認する考えが強いが、英米で認められきた「自己保存」の事由も、これと同様の効果をもつとの指摘もある。
 陸戦規則23条gは、敵の財産を破壊し、押収することは「戦争の必要上万已を得ざる場合を除くの外」禁止されるとし、1949年の文民の保護に関するジュネーブ条約53条も、これを同趣旨の規定を置く。そのほかにも、必要性が強調されつつ認められる戦時法上の規定がある(陸戦規則27条、52条の表現)。第1次大戦で、ドイツはベルギーの中立を侵犯し、それを緊急の必要で説明し、イギリスも戦争の意図なくして一方的にギリシャに進駐するなど、jus ad bellumの領域で、同様の行為がなされることもある。jus in belloの逸脱は、別に、戦時復仇としてもなされるが、復仇が相手側の客観的な戦時法違反行為への対応としてなされ、少なくとも、相当性の限界があるのに対し、この場合は、いわば、主観的な必要・緊急事由のみからなされ、合理的限界も示されてない。もともと、戦時法は、軍事的必要と人道確保の必要とのバランスの上に成り立っており、戦争法規には、最初から必要事由が組み込まれているとみれば、とりたててこれを認めるまでもない。緊急事由は、自衛権、緊急行為として、別途用意されているとみることも可能である。これが行き着くところ、戦時法そのものが否定される結果になりえることも、正当な概念・慣行として、否認される事由になる。これまで援用されたケースが、単に違法を糊塗するためのものであったとみられる。(2度の大戦の諸例)ことからも、これを独立の逸脱事由とみるべきではない、との立場が説得性をもつ。もっとも、前述諸条約のように、明文規定があれば、それから解釈できる範囲で、これが認められることは、いうまでもない。 (筒井若水)