軍事目標主義
  

『国際法辞典』国際法学会編、鹿島出版、昭和50年3月30日発行 p.151-152
  軍事目標主義〔英〕Doctrine of Mlitary Objective 戦時における砲爆撃は軍事目標だけに限られなければならないという考え方.これは敵の戦力の中心への集中攻撃という軍事的必要性と,非戦闘員とその財産を保護するという人道的要求の双方の見地から,その妥当性が認められている.1907年の「戦時海軍力をもってする砲撃に関する条約」によって条約化され、また1922年の空戦法規案もこの考え方によっている.したがって「占領にたいして抵抗する」防守地域にたいする場合を除き,無差別砲爆撃は国際法上認められていない,第二次大戦中になされたような「地域爆撃――軍事目標とその周辺の一般住民の住宅を含めた―定地域を完全に破壊する爆撃」および「戦略都市爆撃――軍事的・政治的中心都市全体を目標とする爆撃」は軍事目標主義に反する.また,無差別砲爆撃と同じような結果をもたらす核兵器およびその他の大量破壊兵器の使用――たとえば第二次大戦中の広島・長崎への原爆投下――も軍事目標主義に反している.
  しかし,軍事目標の定義とその具体的内容については、必ずしも明確でない.従来は「その性質上,軍事的重要性を有すると一般に承認された目標」という定義がなされ,具体的に軍事目標を例示するという方法がとられてきた.そして,軍事目標のリストとして,軍隊,陣地、兵器,軍事省,軍需品集積所,飛行場,交通線,放送局,軍需品製造工場,軍事的性質をもつ生産工場,国防のための動力施設などがあげられている.しかし,最近,文民的性質のものを攻撃してはいけないという立場から,文民の生存に不可欠なもの,平和的または救助的目的に役立つものなどを,非軍事物として具体的に例示するという方法が提案されている.いずれの方法がとられても、軍事目標と非軍事物の中間にあるもの,特に,軍事的にも非軍事的にも利用可能なものをいずれの分類に含めるかという,実際上決定の難しい問題が残されている.
  さらに,現代戦においては,第二次大戦にもみられるように,交戦国が軍事目標主義を厳格に守るのを期待することは必ずしも容易ではない.また,軍事目標を攻撃する際に,その周辺の非戦闘員とその財産および文化財などが危険にさらされる場合が少なくない.そのため,第二次大戦後は,新しく安全地帯,中立地帯,病院地帯および文化財保護施設または地区などの特別地区を設定することによって,文民および文化財を戦争の危険から保護しようとする試みがなされている.→戦争犠牲者保護条約,武力紛争の際の文化財の保護に関する条約,病院地帯,中立地帯(城戸正彦)

『国際法辞典』筒井若水編集代表、有斐閣、1998年3月30日 p.75-76
  軍事目標主義 英doctrine of military objective 戦争ないし武力紛争において,攻撃対象を軍事目標と非軍事目標に分け,前者に対する攻撃のみが許されるという武力紛争法の基本原則。ハーグ平和会議で採択された諸条約には,陸戦・海戦に関して,軍事目標主義を採用する規定がみられ,空戦においても妥当すると考えられている。陸戦において無差別攻撃を禁ずる基準が無防備都市〔陸戦規則25〕であるのに対し,海戦においては,無防備都市への砲撃を禁止しつつ,その禁止対象から軍事目標が除外される〔戦時海軍砲撃条約1・2〕. 1923年の空戦に関する規則案24条では,軍事目標一般に対しての空襲を認めている。これらが禁止するのは無差別攻撃にすぎないが,1977年のジュネーヴ諸条約の追加議定書では,軍事行動の対象を軍事目標に限定する〔ジュネーヴ追
加議定書I48・52〕とともに,攻撃が絶対的に禁止される無防備地域を協定により設定できるとしている〔ジュネーヴ追加議定書I 59.なお,同48参照.〕⇒無防守地域 ⇒無差別爆撃
文献 竹本正幸「軍事目標主義をめぐる最近の動向」
田畑還暦/城戸正彦「第二次大戦および戦後の国際法学説における軍事目標主義」国際57-5

 

参考資料

  • 『国際法辞典』 国際法学会編 鹿島出版
    (昭和50年3月30日発行)
  • 『国際法辞典』筒井若水編集代表、有斐閣
    (1998年3月30日初版第1刷発行)