空襲軍律



空襲の敵航空機搭乗員の処罰に関する軍律(昭和一七、一〇、一九 防衛総司令部)

◎(1)空襲の敵航空機搭乗員の処罰に関する軍律(昭和一七、一〇、一九 防衛総司令部)
第一條 本軍律は帝国領土、満洲国又は我が作戦地域を空襲し東部、中部、西部、北部、朝鮮及台湾各軍の権内に入りたる敵航空機搭乗員に之を適用す
第二條 左に掲くる行為を為したる者は軍罰に処す
一、普通人民を威嚇又は殺傷することを目的として爆撃、射撃其の他の攻撃を加ふる行為
二、軍事的性質を有せさる私有財産を破壊毀損又は焼却することを目的として爆撃、射撃其の他の攻撃を加ふる行為
三、已むを得さる事情ある場合の外軍事的目標以外の目標に対し爆撃、射撃其の他の攻撃を加ふる行為
四、前三号の外特に人道を無視したる暴虐非道なる行為
前項の行為を為す目的を以て帝国領土、満洲国又は我が作戦地域に来襲し其の目的を遂けさる前第一條に掲くる各軍の権内に入りたる者亦同し
第三條 軍罰は死とす但し情状に依り無期又は十年以上の監禁を以て之に代ふることを得
第四條 死は銃殺す
監禁は別に定むる場所に拘置し定役に服す
第五條 特別の事由ある時は軍罰の執行を免除す
第六條 監禁に就ては本軍律に定むるものの外刑法の懲役に関する規定を準用す
附則
本軍律は昭和十七年十一月一日より之を施行す
本軍律は施行前の行為に対しても之を適用す

JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020069900、空襲軍律 昭和17年10月19日




空襲の敵航空機搭乗員に関する軍律会議実施規定(昭和一七、一〇、一九 防衛総司令部)

◎(2)空襲の敵航空機搭乗員に関する軍律会議実施規定(昭和一七、一〇、一九 防衛総司令部)
一、東部、中部、西部、北部、朝鮮及台湾軍の権内に入りたる空襲の敵航空機搭乗員の本軍律違反者の処罰は防衛総司令官之を行ひ又は其の指示に基き各軍司令官之を行ふ
之が為防衛総司令官及各軍司令官は空襲の敵航空機搭乗員にして本軍律違反者として処断すべき疑ある者は之を軍律会議に送致す
二、嫌疑者ありたる時は特に指示する場合の外各軍は之を防衛総司令部に送致するものとす
三、防衛総司令官は東京に軍律会議を置き其の構成員は防衛総司令部及所要の軍の将校を以て之に充つ
前項の軍律会議の外各軍に軍律会議を置き其の構成員は各軍の将校を以て之に充つ
軍律会議に関しては陸軍軍法会議法中特設軍法会議に関する規定を準用するものとし細部の実施法は軍司令官之を定む
四、防衛総司令官の指示により各軍司令官に於て嫌疑者を軍律会議に送致する場合に在りて嫌疑者の行為が他軍に関係を有する場合に於ては当該関係軍将校を所要に応じ軍律会議構成員に加ふるものとし之が実施に関しては関係軍司令官に協議するものとす
五、嫌疑者の行為が関東軍其の他外地軍に関係を有する場合に於ては防衛総司令官は軍律会議実施上所要の事項に関し関係軍司令官と連絡するものとす
六、軍律会議の実施記録は防衛総司令部に在りては之を関係軍に通報し又各軍に在りては之を防衛総司令部に報告し且関係軍に通報するものとす
七、罰の執行は関係の軍司令官之を行ふ但し防衛総司令官は東部軍司令官をして之を行はしむるものとす
八、各軍より防衛総司令部に送致すべき嫌疑者の護送法に関しては其の都度指示す

JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020069900、空襲軍律 昭和17年10月19日



東部軍軍律審判規則(昭和一七、一一、一 東軍法発二〇一九)

◎(3)東部軍軍律審判規則(昭和一七、一一、一 東軍法発二〇一九)
第一條 東部軍に軍律会議を設置し空襲の敵航空機搭乗員の処罰に関する軍律を犯したる者を審判す
第二條 軍律会議は軍司令官を以て長官とす
第三條 軍律会議は審判官三名を以て之を構成す
第四條 審判官は兵科将校二名法務部将校一名を以て充つ長官之を命す
第五條 軍律会議は審判官検察官及録事列席して之を開く
第六條 軍罰の施行は検察官の指揮に依り監禁場長をして之を行はしむ
第七條 本規則に定めなき事項は陸軍軍法会議法中特設軍法会議に関する規定を準用す
附則
本規則は昭和十七年十一月一日より之を施行す

JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020069900、空襲軍律 昭和17年10月19日



東京監禁場規定(昭和一七、一一、一 東軍法二〇一九)

◎(4)東京監禁場規定(昭和一七、一一、一 東軍法二〇一九)
第一條 東京陸軍刑務所内に監禁場を設置し東京監禁場と称す
第二條 監禁場は空襲の敵航空機搭乗員の処罰に関する軍律違反事件の未決及既決の囚徒を拘禁す
第三條 監禁場長以下の職員は東京陸軍刑務所長及所要の同所職員を以て之に充つ
第四條 東部軍法務部将校は監禁場を巡視す
第五條 本規定に定めなき事項は陸軍監獄令同施行細則を準用す
附則
本規定は昭和十七年十一月一日より之を施行す

JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020069900、空襲軍律 昭和17年10月19日



敵航空機搭乗員処罰に関する軍律(昭和一七、八、一三 支那派遣軍総司令官制定)

敵航空機搭乗員処罰に関する軍律(昭和一七、八、一三 支那派遣軍総司令官制定)
第一條 本軍律は帝国領土満洲国又は我が作戦地域を空襲し支那派遣軍の権内に入りたる敵航空機搭乗員に之を適用す
第二條 左に記載したる行為を為したる者は軍罰に処す
一 普通人民を威嚇又は殺傷することを目的として爆撃、射撃其の他の攻撃を加ふること
二 軍事的性質を有せさる私有財産を破壊又は毀損することを目的として爆撃、射撃其の他の攻撃を加ふること
三 已むを得さる場合の外軍事的目標以外の目標に対し爆撃、射撃其の他の攻撃を加ふること
四 前三号の外戦時国際法規に違反すること
前項の行為を為す目的を以て帝国領土満洲国又は我が作戦地域に来襲し其の未た之を遂けさる前支那派遣軍の権内に入りたる者亦同し
第三條 軍罰は死とす但し情状に依り無期又は十年以上の監禁を以て之に代ふることを得
第四條 死は銃殺す
監禁は監禁場に拘置し定役に服す
第五條 特別の事由あるときは軍罰の執行を免除す
第六條 監禁に付ては本軍律に定むるものの外刑法の懲役に関する規定を準用す
附則
本軍律は昭和十七年八月十三日より之を施行す
本軍律は施行前の行為に対しても之を適用す


JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020069900、空襲軍律 昭和17年10月19日



敵航空機搭乗員処罰に関する軍律に対する国際法的検討 俘虜関係調査部

昭和二十年十二月
敵航空機搭乗員処罰に関する軍律に対する国際法的検討
俘虜関係調査部

前言
本冊子は昭和十七年十月十九日制定の「空襲の敵航空機搭乗員の処罰に関する軍律」に対し国際法上之に検討を加へたる諸学者の意見を収録せしものなり
昭和二十年十二月二十五日
俘虜関係調査部

敵航空機搭乗員処罰に関する軍律に対する国際法的検討
第一 軍律制定の適否

1、信夫淳平博士
軍律の制定は戦時に於て須要の一事たること論を俟たず。而してその制定は開戦の当初(占領地にありては占領地行政開始の際)成るべく速に行ふを望ましとす。これ戦律犯(交戦の法規慣例の違反行為)の行はれたる後に至り急に軍律を制定し、次て之を既往に遡らしめて適用するが如き弊を避けしむるための要望を出づ。余談ながら拙者の明治三十七年、日露戦役の折、国際法関係の任務を帯び遼東守備軍附として従軍するや、着任後直ちに右の意味を軍参謀長に進言し、その賛可の下に急ぎ管内占領地の軍律を起草し、以て何時犯人の出ることある場合にも差支なきやう取計ひたることあり。昭和十七年八月十三日の支那派遣軍総司令官制定の、又同年十月十九日の防衛総司令部発令の各軍律は、共に立法の時期甚だ遅慢たりし遺憾なき能はず。

2、水垣進講師
昭和十七年八月十三日支那派遣軍々律、昭和十七年十月十九日在日本防衛総司令部軍律並に之が実施規定の制定は、其れ自体は形式的には、国際法違反に非ず。
在来の国際慣習法に依れば、戦斗法規其の他の条約を犯したる敵国の人員は、其の捕へられたる部隊に於て該指揮官の■罰を受ける事が規定せられあり。此の際該法規は間諜の如き其の隠密性の為に犯罪事実の明確を欠く場合、特に裁判機関を通じて之が処罰に当る可き旨を規定しありて、其の他の行為に就ては、特に規定する所なし。然し乍ら敵国人の処罰と雖も其の事実審査を厳重にし、過誤なからしめんとする主旨に於て、特に軍律審判規定を設ける事は、戦時重罪犯の処罰が許容されおる限り、違法ならざるは当然、特に慎重なる所為として高く評価せらる可きである。

第二 軍律内容の適否
1、信夫淳平博士
昭和十七年八月十六日支那派遣軍総司令官制定及び同年十月十九日防衛総司令部発表の両軍律を先つ各別に閲するに。前者の第二條第二号に於て「軍事的性質を有せざる」財産を「私有財産」に限りたるは不足の憾あり。
破壊又は毀損するを得ざる財産は私有財産に限らず、国有又は公有の財産にしても例へば宗教、学術、技芸、慈善、衛生等の保護物件は均しく破壊毀損を加ふるを得ざること交戦の法規慣例の命ずる所なり。これは第四号の文言にて包括し得と云へば云ひ得ざるに非ざるも、第二号に於て特に私有財産のことを云々すれば、国有公有の財産は軍事的性質を有せざるものも破壊毀損を妨げずと誤解せしむる虞あり。故に財産のことを規定する以上は、第二号に於て右の意味を併せて明かにして置く方然るべしと思はる。
第四号の「戦時国際法規」は「交戦の法規慣例」としたる方然るべし。
後者(防衛総司令部発令)の第二條第二号も亦前記の通りとす。次に両軍律を通閲し、第四條末段の未遂犯人を既遂犯人と同一に処分することは解し難し。凡そ戦律犯にありては、一は未遂者を処罰するの理由乏しきこと、二は未遂者の胸中の意図を判断するの困難なること、三は本人にして斯かる意図を有せりと任意に自白せざる限り(その場合殆ど無かるべし)強制自白以外に爾く論断するの道なく、而して強制自白は人道上許されざること等の理由に因り、処罰は専ら既遂者のみに止むること交戦法則の通則とす。尤も未遂犯なるものを厳密に細分し、即ち之を予備犯と狭義の未遂犯とに別ち、将た着手未遂と実行未遂とに区分し、多少の程度に未遂犯人を処分するに理由なしとせざるも、概言するに戦律犯は専ら既遂犯に止めしむること各国の軍律に共通する概念なるに似たり。
本軍律に於て既遂未遂を同一に処断せんとするに就ては、何等特殊の事由あるに因るか。その特殊の事由を了知せざる限り、卑見は之に不同意を表せざる能はず。
最後に、附則に於て本軍律を施行前の行為に対しとも適用すとのことを規定したる一事は、卑見の最も強く反対せざるを得ざるものなるを遺憾とす。抑■犯行がありし後に於て、しかも被告に対する審理が終りし後に於て(と推測す)、その擬律に関する法規を急に制定し、遡つて之を被告に適用するが如きは、立法の法理及び技術の上より断じて妥当の措置と云ふを得ざるべし。犯人に対する刑事的制裁は、その犯行ありし時の現在有効の法規に照し考量すべきものにして、適用すべき明文が犯行当時に現に無くば、如何なる犯行とても之を処罰するを得ざること法律の初歩的原則なりとす。勿論法律に遡及効を認むる例外はあり。然れども、そは概して既存の法律の解釈又は施行に関するもの、その他特殊の事由ある特別性のものにして、原則的には法律は既往に遡らず、裁判は現行の法文に照して行ふを本体とす。軍律会議とても、この原則より離るるを許されざるべし。米機の行動は明かに戦律犯を構成せる最も憎むべき暴挙なりしは論なきが、さればとて犯行の現時に於て之に適用すへき軍律が存在せずば、如何に獰悪性の犯行なりしとするも、又ために釈放することが如何に残念なりしにもせよ、結局之が釈放するの外なかりしものと信ず。
この卑見は本軍律の立案者及び我が国民の多数者の賛成を得ず別して被害者の父兄眷族よりは怨まるるやも知らざれど、畢竟は開戦後直ちに向後必要の場合に直ちに適用し得る軍律の制定に着手せざりし軍事当局者の不用意に由れる法の不備に基く所の已むを得ざる結果に外ならず。兎に角冷静なる法律眼に照さば、右の附則は不妥当なるを免れざるものに似たり

2前原光雄教授
空襲に関する国際法規が未だ確立せられてないことは周知のことであるが、非戦闘員の生命、財産を攻撃の目標と為し得ないことは戦争法の原則である。従つて、空戦に於てもこの原則は採用せらるへきものである。軍律に於て、航空機よりの攻撃目標を軍事目標に眼定し、これに反する攻撃を不法とし、かゝる不法なる攻撃を行つた者が我軍の中に帰したる場合に、これを処罰すへきことを定めたのは正当であると信ずる。
第二 搭乗員の訴追
敵航空機の搭乗員にして我軍の権内に入つた者は俘虜であるから(陸戦の法規慣例に関するハーグ條約第四條、俘虜の待遇に関する條約、第二号、参照)俘虜として遇すへく、従つて、これ等搭乗員の訴追に関しては、俘虜の待遇に関する條約第六〇條以下の規定によねばならぬ。それ故に、これと異る軍律会議の規定は条約に反する。

3、水垣進講師
第二條に於て、四項目に亘り処罰対象行為が列記せられあり。
此の内容を検討すると、要するに平和的人民の殺傷、非軍事的目標物の破壊の両点に帰着するが如きも、此の両点は戦斗法規違反の行為として戦時重罪犯を構成することは明らかなり。従つて軍律の内容自体は何等の違法性を存せずと考へる。但し本條の内容が防守都市に対する無差別爆撃を否認し、所謂軍事目標主義に立てるものと判断せらるるも、防守都市爆撃に際し、地上、■中に戦斗行為が行われつゝある時期に於て、尚且、軍事目標主義を支持せんとするは困難なるものと考へる。従つて第三項の「已むを得ざる事情ある場合」の内容は此の種の点を考慮するものと解釈し、審判に当り採用せらる可きであらう。
問題は軍律に附属する実施規定にある。第三項に於て「特設軍法会議に関する規定」を準用する旨規定しあるも一九二九年條約は第六十條以下に訴追手続の具体的規定を有し、保護国への通告、弁護人の採択等、特設軍法会議の手続とは、実質的に大なる相違を示せり。従つて第六十條以下の條項にして
の原則に依る除外が認められないとすれば、此の第三項は当然に違反性を有するものである。因に此の第六十條以下は僻遠の地に於ては、適用困難なる可きも、日本内地の如き場所に於ては、適用は充分に可能にして而かも、「作戦上の必要」に依る弁護を許さないものである。又、解釈によりては敵機搭乗員は其の違反行為の理由に依り捕獲されたる場合、戦時犯罪人にして俘虜に非ず。従つて之に俘虜待遇條約の適用は不必要なりとの理論ありとするも、之は明に誤りなり。敵機搭乗員は、捕獲されたる場合、其の行為の如何に拘らず、一応は俘虜としての待遇を与へられる可く、其の後の審理に依り、戦時犯罪なりと断定せられたる時始めて俘虜たるの身分を失ふものである。従つて第六十條以下の適用は当然である。又本條項は俘虜たる身分を有する者の訴追手続なれば、俘虜たる以前に行はれたる行為に対しても、該当人員が既に権内に入りて俘虜となりたる以上は之を適用する義務あるものである。

JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020069800、敵航空機搭乗員処罰に関する軍律に対する国際法的検討 昭和20年12月




参考資料