中支那方面軍軍律


中支那方面軍軍律 昭和12年12月1日

中方軍令第一号
中支那方面軍軍律左記の通定む
昭和十二年十二月一日
中支那方面軍司令官 松井石根

中支那方面軍軍律
第一条 本軍律は帝国軍作戦地域内に在る帝国臣民以外の人民に之を適用す〈但し中華民国軍隊又は之に準ず軍部隊に属する者に対しては陸戦の法規及慣例に干する条約の規定を準用す〉
第二条 左に掲ぐる行為を為したる者は軍罰に処す
一 帝国軍に対する叛逆行為
二 間諜行為
三 前二号の外帝国軍の安寧を害し又は其の軍事行動を妨害する行為
第三条 前条の行為の教唆若は幇助又は予備、陰謀若は未遂も亦之を罰す但し情状に因り罰を減軽又は免除することを得
第四条 前二条の行為を為し未だ発覚せざる前自首したる者は其の罰を減軽又は免除す

『続現代史資料』 p.194



中支那方面軍軍罰令 昭和12年12月1日

中方軍令第二号
中支那方面軍軍罰令左記の通定む
昭和十二年十二月一日
中支那方面軍司令官 松井石根

中支那方面軍軍罰令
第一条 本令は中支那方面軍軍律を犯したる者に之を適用す
第二条 軍罰の種類左の如し
一 死
二 監禁
三 追放
四 過料
五 没取
軍罰の軽重は前項記載の順序に依る
第三条 死は銃殺す
第四条 監禁は一月以上とし囚禁場に拘置し定役に服す 但し情状に因り定役を免ずることを得
第五条 追放は一年以上の期間一定地域外に放逐す
第六条 監禁又は追放を減軽する場合に於ては之を一月以下又は一年以下に降すことを得
第七条 過料は一円以上千円以下とす
過料を完納すること能はざる者は一日以上の監禁に付す
過料の言渡を為すときは其の言渡と共に監禁の期間を定め之を言渡すべし
第八条 左に記載したる物は之を没取す
一 犯行を組成したる物
二 犯行の用に供し又は供せんとしたる物
三 犯行より生じ若は之に因りて得たる物又は犯行の報酬として得たる物
前項の没取は其の物犯人以外の者に属せざるときに限る但し犯行後犯人以外の者情を知りて其の物に対する権利を取得したる場合は此の限りに在らず
第九条 没取は他の軍罰に附加して之を科す
第十条 二箇以上の犯行あるときは其の軍罰を併科し又は一の重き軍罰のみを科することを得

『続現代史資料』 p.194-195



中支那方面軍軍律審判規則 昭和12年12月1日

中方軍令第三号
中支那方面軍軍律審判規則左記の通定む
昭和十二年十二月一日
中支那方面軍司令官 松井石根

中支那方面軍軍律審判規則
第一条 軍律会議は軍律を犯したる者に対し其の犯行に付之を審判す
第二条 軍律会議は上海派遣軍及第十軍に之を設く
第三条 軍律会議は之を設置したる軍の作戦地域内に在り又は其地域内に於て軍律を犯したる者に対する事件を管轄す
前項の外上海派遣軍に設置したる軍律会議は中支那方面軍の直轄管区内に在り又は其の管区内に於て軍律を犯したる者に対する事件を管轄す
第四条 軍律会議は軍司令官を以て長官とす
第五条 軍律会議は審判官三名を以て之を構成す
審判官は陸軍の将校二名及法務官一名を以て充て長官之を命ず
第六条 中華民国人以外の外国人を審判に付せんとするときは方面軍司令官の認可を受くべし
第七条 軍律会議は審判官、検察官及録事列席して之を開く
第八条 軍律会議に於て死を宣告せんとするときは長官の認可を受くべし
第九条 軍罰の執行は検察官の指揮に依り憲兵をして之を為さしむ
第十条 本令に別段の定めなき事項は陸軍軍法会議中特設軍法会議に関する規定に依る

『続現代史資料』 p.195



軍律制定に関する意見

軍律制定に関する意見

参謀部第一課
意見なし

参謀部第二課
左に該当する者は厳罰に処す
一、日本軍の位置、兵種、兵力、行動等を他に洩らしたるもの
二、流言蜚語を放ち治安を妨害せるもの
三、日本軍の布告文「ポスター」等の貼布を拒否妨害、毀損したるもの
四、便衣隊、密偵、兵器等を隠匿せるもの
五、混乱の機に乗じ掠奪暴行を敢てし罪を日本軍に帰せしめたるもの
六、治安維持を拒否し又は之に当れる支那人の行動を妨害せるもの
七、兵器を所持するもの

経理部
一、軍用手票の融通を妨害し又民衆を煽動し不正の利益を得たる者若は得んとしたる者は 年以下の刑に処す
布告(案)
我軍の作戦地域内に於て左に掲ぐる行為を為したる者は軍律に照し死又は重罰に処す 但し発覚前自首したる者は其の罰を減軽又は免除せらるべし
一 日本軍に対する叛逆行為
二 間諜行為
三 日本軍所属者に対し危害を加ふる行為
四 日本軍の利用する鉄道、電信、電話、道路、橋梁、水路等を破壊し其の他交通通信を妨害する行為
五 日本軍の兵器弾薬其の他軍用に供する物を盗奪又は損壊する行為
六 日本軍を害する目的を以て毒物、細菌を撒布する行為
七 其の他日本軍の安寧を害し又は軍事行動を妨害する行為
八 以上の行為を企図し又は教唆若は幇助する行為

『続現代史資料』 p.195-196



中支那方面軍軍律審判規則中改正の件

中方軍令第四号
中支那方面軍軍律審判規則中改正の件
隷下一般
中支那方面軍軍律審判規則中左の通改正す
昭和十三年一月十日 中支那方面軍司令官 松井石根

第二条 軍律会議は中支那方面軍、上海派遣軍及第十軍に之を設く
第三条 中支那方面軍軍律会議は上海憲兵隊管区内に在り又は其の管区内に於て軍律を犯したる者に対する事件を管轄す
上海派遣軍軍律会議は南京憲兵隊管区内に在り又は其の管区内に於て軍律を犯したる者に対する事件を管轄す
第十軍軍律会議は杭州憲兵隊管区内に在り又は其の管区内に於て軍律を犯したる者に対する事件を管轄す
中支那方面軍司令官は前三項の規定に拘らず特定の事件に付之を管轄すべき軍律会議を指定することを得
第六条 上海派遣軍軍律会議及第十軍軍律会議に於て中華民国人以外の外国人を審判に付せむとするときは中支那方面軍司令官の認可を受くべし

『続現代史資料』 p.196



中支那方面軍囚禁場規程 昭和13年1月10日

中支那方面軍囚禁場規則別冊の通定む
昭和十三年一月十日
中支那方面軍司令官 松井石根

中支那方面軍囚禁場規程
第一条 中支那方面軍に中支那方面軍囚禁場(以下囚禁場と略称す)を設置す
第二条 囚禁場は左に記載したる者を拘禁留置す
一、懲役、禁錮又は拘留の執行を受くる者
二、死刑の言渡を受けたる者
三、刑事被告人
四、労役場留置の執行を受くる者
第三条 囚禁場には軍律違犯に因り監禁の執行を受くる者、死の言渡を受けたる者又は被告人と為りたる者を拘禁することを得
前項の場合に於ては前条記載の者と其の監房を別異す
第四条 囚禁場に左の職員を置く
囚禁場長 一名
看守長 一名
看守 五名
囚禁場長は憲兵の将校、看守長は憲兵の下士官、看守は憲兵の下士官又は上等兵を以て各之に充つ
看守長及看守の人員は必要に因り之を増加することを得
前項の場合に於て増加人員中一部は補助憲兵を以て之に充つることを得
第五条 囚禁場長は方面軍司令官に隷し部下の官吏を指揮監督し囚禁場の事務を掌理す
第六条 看守長は囚禁場長の命を承け庶務及戒護に従事し看守を指揮監督す
第七条 看守は上官の命を承け看守、護送、門衛等の事務に服す
第八条 囚禁場の衛生事務は最寄隷下部隊の衛生部職員をして之を管掌せしむ
第九条 中支那方面軍軍法会議上席法務官は囚禁場長に対し其の所管事項に関し必要なる指示を与ふることを得
第十条 本規定に定むるものの外陸軍監獄令同施行細則の規定を準用す
附則
昭和十二年中方参第三三号は之を廃止す
上海派遣軍代用囚禁場に拘禁中の者は中支那方面軍囚禁場に移監すべし

『続現代史資料』 p.197

 
 

参考資料

  • 『続・現代史資料6 軍事警察』高橋正衛編、みすず書房
    (1982年2月26日発)