陸軍省・参謀本部


陸軍省

陸軍次官通牒 交戦法規の適用に関する件
(K-K註:カタカナは平仮名へ、旧字は新字へ適宜修正している)

受領番号 陸軍省受領 陸支密受第四四七号 起元庁(課名) 軍事課
件名 交戦法規の適用に関する件
(K-K註:了承印は略す、欄外に記述あり「本件は海軍外務■一応了解せしめあり」)

次官より支那駐屯軍参謀長宛通牒案
(陸支密、飛行便)
(別紙の通)
陸支密第一九八号 昭和拾弐年八月五日

極秘
陸支密
次官より駐屯軍参謀長宛(飛行便)
今次事変に関し交戦法規等の問題に関しては別紙に準拠するものとす

右依命通牒す
別紙
左記
一、現下の情勢に於て帝国は対支全面戦争を為しあらさるを以て「陸戦の法規慣例に関する條約其の他交戦法規に関する諸條約」の具体的事項を悉く適用して行動することは適当ならす
二、但し左の件を実施するは現下の状況に於て当然の措置なるへし
1、自衛上必要の限度に於て敵性を有する支那側動産不動産を押収没収破壊し或は適宜処分(例へは危険性あるもの、長期の保存に堪へさるもの押収後之か保管に多大の経費、労力を要するもの等を換価又は棄却する等)し
「但し土地建物等の不動産及私有財産(市、区、町、村に属する財産を含む)は之を軍に於て没収することは適当ならす」
2、自衛の為又は地方良民等の福祉の為緊急已むを得さる場合に於て前項の物件等を利用すること
三、右述の外日支干戈の間に相見ゆるの急迫せる事態に直面し全面戦争への移行転移必すしも明確に判別し難き現状に於て自衛上前記條約の精神に準拠し実情に即し機を失せす所要の措置を採るに遺漏なきを期す
四、軍の本件に関する行動の準拠前述の如しと雖帝国か常に人類の平和を愛好し戦闘に伴ふ惨害を極力減殺せんことを顧念しあるものなるか故に此等の目的に副ふ如く前述「陸戦の法規慣例に関する條約其の他交戦法規に関する諸條約」中害敵手段の選用等に関し之か規定を努めて尊重すへく又帝国現下の国策は努めて日支全面戦に陥るを避けんとするに在るを以て日支全面戦を相手側に先んして決心せりと見らるる如き言動(例へは戦利品、俘虜等の名称の使用或は軍自ら交戦法規を其の儘適用せりと公称し其の他必要已むを得さるに非さるに諸外国の神経を刺戟するか如き行動)は努めて之を避け又現地に於ける外国人の生命、財産の保護、駐屯外国軍隊に対する応待等に関しては務めて適法的に処理し特に其の財産等の保護に当りては努めて外国人特に外国外交官憲等の申出を待て之を行ふ等要らさる疑惑を招かさるの用意を必要とし
五、地方の行政治安維持其の他官公署等の動産不動産の保護等に関しても軍政を布き或は軍自ら進んて之に関与するを避け前述の趣旨に鑑み努めて北支明朗化に害なき支那人士をして自主的に之に当らしめ軍は現地に於ける唯一の治安維持の真の有能力者として之に必要なる内面的援助を与へ其の実を挙くるを可とす又支那側の神社仏閣等の保護に就ては勉めて注意あり度
六、右諸件の実施に方りては機を失せす之か具体的報告を提出するものとす
追て右諸件堀内総領事にも伝へられ度、外務省諒解済

受領番号 支密領第四四七号 起元庁(課名) 軍事課
件名 交戦法規の適用に関する件

(K-K註:了承印は略す

次官より丁集団参謀長宛
通牒案(陸支密)
交戦法規の適用に関し別紙の通各軍に通牒せられあるに付之に準拠せられ度通牒す
陸支密第一七七二号 昭和十二年十一月四日


交戦法規の適用に関する件
一、現下の情勢に於て日支両国は未た国際法上の戦争状態に入りあらさるを以て「陸戦の法規慣例に関する條約其の他交戦法規に関する諸條約」の具体的事項を悉く適用して行動することは適当ならす
二、但し左の件を実施するは現下の状況に於て当然の措置として差支なし
1、自衛上必要の限度に於て敵性を有する支那側動産不動産を押収没収破壊し或は適宜処分(例へは危険性あるもの、長期の保存に堪へさるもの、押収後之か保管に多大の経費、労力を要するもの等を換価又は棄却する等)すること
「但し土地建物等の不動産及私有財産(市、区、町、村に属する財産を含む)は之を軍に於て没収することは適当ならす」
2、自衛の為又は地方良民等の福祉の為緊急已むを得さる場合に於て前項の物件等を利用すること
三、右述の外日支干戈の間に相見ゆるの急迫せる事態に直面し全面戦争への移行転移必すしも明確に判別し難き現状に於て自衛上前記條約の精神に準拠し実情に即し機を失せす所要の措置を採るに遺漏なきを期す
四、軍の本件に関する行動の準拠前述の如しと雖帝国か常に人類の平和を愛好し戦闘に伴ふ惨害を極力減殺せんことを顧念しあるものなるか故に此等の目的に副ふ如く前述「陸戦の法規慣例に関する條約其の他交戦法規に関する諸條約」中害敵手段の選用等に関し之か規定を努めて尊重すへく又帝国現下の国策は努めて日支全面戦に陥るを避けんとするに在るを以て日支全面戦を相手側に先んして決心せりと見らるるか如き言動(例へは戦利品、俘虜等の名称の使用或は軍自ら交戦法規を其の儘適用せりと公称し其の他必要已むを得さるに非さるに諸外国の神経を刺戟するか如き言動)は努めて之を避け又現地に於ける外国人の生命、財産の保護、駐屯外国軍隊に対する応待等に関しては勉めて適法的に処理し以て第三国との紛糾を避くるのみならす皇軍に対して信頼を抱かしむる如くするものとす
五、地方の行政治安維持其の他官公署等の動産不動産の保護等に関しても軍政を布き或は軍自ら進んて之に関与するを避け前述の趣旨に鑑み軍は必要なる内面的援助を与へ其の実を挙くるを可とす又支那側の神社仏閣等の保護に就ては勉めて注意あり度
六、右諸件の実施に方りては機を失せす之か具体的報告を提出するものとす



受領番号 陸軍省受領 陸支密受第一五九九号 起元庁(課名)軍事課
件名 交戦法規の適用に関する件

(K-K註:了承印は略す

次官より関東軍参謀長宛(飛行便)
今次事件に伴ふ交戦法規の適用の限度に関しては別冊に準拠することに定められたるに付通牒す追て別冊は既に支那駐屯軍に対して指示せられたるものなるに付申添ふ
陸支密第六三五号 昭和拾弐年九月参日

極秘
交戦法規の適用に関する件
一、現下の情勢に於て両国は未た国際法上の所謂日支戦争に入りあらさるを以て「陸戦の法規慣例に関する條約其の他交戦法規に関する諸條約」の具体的事項を悉く適用して行動することは適当ならす
二、但し左の件を実施するは現下の状況に於て当然の措置として差支なし
1、自衛上必要の限度に於て敵性を有する支那側動産不動産を押収没収破壊し或は適宜処分(例へは危険性あるもの、長期の保存に堪へさるもの、押収後之か保管に多大の経費、労力を要するもの等を換価又は棄却する等)すること
「但し土地建物等の不動産及私有財産(市、区、町、村に属する財産を含む)は之を軍に於て没収することは適当ならす」
2、自衛の為又は地方良民等の福祉の為緊急已むを得さる場合に於て前項の物件等を利用すること
三、右述の外日支干戈の間に相見ゆるの急迫せる事態に直面し日支戦争への移行転移必すしも明確に判別し難き現状に於て自衛上前記條約の精神に準拠し実情に即し機を失せす所要の措置を採るに遺漏なきを期す
四、軍の本件に関する行動の準拠前述の如しと雖帝国か常に人類の平和を愛好し戦闘に伴ふ惨害を極力減殺せんことを顧念しあるものなるか故に此等の目的に副ふ如く前述「陸戦の法規慣例に関する條約其の他交戦法規に関する諸條約」中害敵手段の選用等に関し之か規定を努めて尊重すへく又帝国現下の国策は努めて日支戦争に陥るを避けんとするに在るを以て此種戦争を相手側に先んして決心せりと見らるる如き言動(例へは戦利品、俘虜等の名称の使用或は軍自ら交戦法規を其の儘適用せりと公称し其の他必要已むを得さるに非さるに諸外国の神経を刺戟するか如き言動)は努めて之を避け又現地に於ける外国人の生命、財産の保護、駐屯外国軍隊に対する応待等に関しては勉めて適法的に処理し以て第三国との紛糾を避くるのみならす皇軍に対して信頼を抱かしむる如くするものとす
五、地方の行政治安維持其の他官公署等の動産不動産等の保護に関しても軍政を布き或は軍自ら進んて之に関与するを避け前述の趣旨に鑑み努めて北支明朗化に害なき支那人士をして自主的に之に当らしめ軍は現地に於ける唯一の治安維持の真の有能力者として之に必要なる内面的援助を与へ其の実を挙くるを可とす又支那側の神社仏閣等の保護に就ては勉めて注意あり度
六、右諸件の実施に方りては機を失せす之か具体的報告を提出するものとす

「交戦法規の適用に関する件」 アジア歴史資料センター Ref.C04120138000(簿冊:支受大日記(密)其2 昭和13年自1月14日至1月26日)


参謀本部

対支那軍戦闘の参考 昭和12年7月
(K-K註:カタカナは平仮名へ、旧字は新字へ適宜修正している)

第八、捕虜の取扱
其一、武装解除に関する注意
一、支那軍は欺瞞的に投降を装ふことあるを以て不用意に之を許すは危険なり
二、捕虜は其場に武器を放棄せしめたる後之を監視容易なる地(捕虜の種類及兵数に依り地域並其数を決定す)に逐込み且要すれは之を数人毎に聯縛するを可とす
此際特に注意すへきは特に峻厳なる態度及威嚇的処置に依り事大思想に富む彼等を完全に畏縮せしむるに在り
三、速に捕虜中の頭領又は投降の首謀者を求め之を優遇的に懐柔するか又は威嚇し以て自ら萬般の指図を為さしむるを可とす
其二、捕虜の処置
一、捕虜は他国人に対する如く必すしも之を後送監禁して戦局を待つを要せす特別の場合の外現地又は他地に移し適宜処置或は釈放するを可とすること多し
二、状況特に捕虜の種類に依りては之を懐柔し敵方に送りて敵側の撹乱、分裂等を図らしめ或は我か軍の威力を伝へしめ以て敵の動揺を策するを有利とすることあり

「第8 捕虜の取扱 其1 武装解除に関する注意」アジア歴史資料センター Ref.C11110831100(簿冊:対支那軍戦闘の参考 昭和12年7月)




参考資料